父の「夏」という詩集の中に<原爆>に関するのが一つある。
夏
ひとりの兵士が帰ってきた。
大男の
ちょっと眉をしかめた
愛くるしい童顔の彼は
前の家の近くだった。
「やあ、帰ったかね。早かったね。
どこにいたの」
「広島です」
「ふーん、あそこはえらい爆弾が落ちたというのに
いい調子だったね」
「はい」
つい、二、三日前の新聞で「新型爆弾か」という
記事を見たばかりだったから
私は心から祝福した。
愛くるしい童顔の彼が
あまり見えないので
どうしたやら
ちょっと聞いてみた。
だれかが言った。
帰った当初一週間ほどは
何ともなかった。
やがて血を吐き出した。
血を下した。
帰ってから
十日ほどで
ちょっと眉をしかめた
愛くるしい童顔の大男は
消えてしまった。
19の夏、僕は原爆ドームの川向いのアパートの一室にいた。
食べる物もなく、水だけを飲んで凌いでいた。
放浪の出発点であったのだが、お腹と背中がくっつくのを実感した。