人生に対する冷笑もなければ諦めもなく、かといって、根拠のない自信に
支えられているといったふうでもない。どんな種類の悲劇と隣り合わせで
生きていかねばならないとしても彼は決して絶望せず、与えられた生命を
謳歌してやまずにいられる。すくすくとのびやかに生きていける。
【小池真理子「存在の美しい哀しみ」
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ひとつの生き方として、「自分は苦労した、苦労した…」と自ら話すひとの生き方には
少なからず嫌悪感を抱く。そんなことこれっぽっちも出さないで、しれっとさりげなく
事も無げに生きろよと言いたくなる。
生まれにしろ、育った環境にしろ、対した人たちにしろ、すべてを肯定して受け入れて
前だけ向いて、目線を上げて、口笛吹いて、、、
♪空に向かってあげた手に
若さがいっぱい飛んでいた
学園広場で肩組み合って
友と歌った若い歌
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♪泣かないって約束したのに
さよならって言ったら
何にも言わずに横向いた
お下げが風に揺れていた
忘れないさ 忘れないさ
好きなのさ
小説を読んでいて、その文中で「気のおけない」という言葉に触れて、
僕は長いこと誤解していたことに気付いた。全く逆の解釈(思い込み)をしていたのだ。
正解とは逆に(警戒を抱くような)という認識だったのだ。文脈からして明らかに
おかしいので調べてみたわけだ。真反対の意味を知り己れを恥じた。
もしかしたら、これまでに会話の中で「あいつは気のおけない奴やな」なんて言ってた
かもしれない。そして他にも同類のことがあるんじゃないかとちょっと不安になる。
大方の大人は「それ違うよ」とはなかなか言ってはくれない。心の中で笑っても。
諺や四文字熟語も然りだ。(ここでソレ使う?)があったかも知れない。
いやはや、勉強、勉強!
♪僕を忘れた頃に
君を忘れられない
その僕の手紙がつく
くもりガラスの窓をたたいて
君の時計を止めてみたい
あゝ僕の時計はあの時のまま
風に吹き上げられたほこりの中
二人の声も消えてしまった
あゝあれは春だったね
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遠い昔に郵便ポストの前で
出そうか出すまいか迷っている自分が見える
そんな頃もありました
あんな時間は、今の時代には体験できそうもない
ポストの前の自分と、ケータイを見つめる自分と…
比較不能の状況が、時代の移り変わりを浮き彫りにする
友はいとも容易く去って行き
何事も無かったかのような空白を残す
ちょっと自虐的に言ってみようか!
あゝあれは青い春だったね
不気味なほどの静寂が続いている。
ケータイは一度たりとも鳴ることはない。
まるでマナーモードにでもしているかのように。
世の中は動いているのだろうか?
生産のざわめきは、僕の耳には届かないのだろうか?
それほどに僕の周りは静まり返っている。
まるで時が止まってしまったかのように。
亡き父を思いかえってみると、父もまたこの年齢の頃、
似たような時を送っていたのだろうか?
そして広告紙の裏やそこらにある紙切れに、自分の頭の中の
妄想や思いつきを文字化することで、気をまぎらわしていたのだろうか?
ごくたまに立ち寄った(帰宅したとは書いたことがない)時の
変わらない風景だった。
父もああして自分だけの世界へ没入する習性を持っていたのだった。
ごく若いころから、私は家族が嫌いだった。
運命共同体が嫌いだった。自分の人生に共同体の象徴である家族が
絡みついてくることが我慢できなかった。
【小池真理子「沈黙のひと」】
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青年は荒野をめざせ。
共同体や絆に人気のない時代だった。
しがらみからの脱出がかっこよく、
家族はカッコ悪かった。
自分で選んだ友人や恋人の方が大切だった。
【持田叙子.解説者】
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本の中身や解説者の言葉が、我が身のことのように甦る。
ことの内容の違いこそあれ、心の揺れ動きは全てと言っていいくらい
酷似していた。そういう時代性と言ってしまえばそれまでのことだが…。
作中の父は、僕の父を連想させる。死別や離婚の違いこそあれ、
それらが因で引き起こされた【流転】は【事実は小説より奇なり】だ。
息子と娘の違いはあっても、子どもとしての立場と感慨は酷似している。
超えて行けそこを!超えてそれを!
「今はまだ人生を語らず」とは言っておられない。
もう自分自身が、それを語られる年齢になってしまった。
石原慎太郎ではないが、「自分と妻の死後、表に出してくれ」という
事柄が少なからずあった人生である。そしてまた、それらの事は、
直接表現ではなく、簿かしたり抽象化したりして表現するしかなかった。