父が歌を歌うのは、ほとんど聴いたことは無かった。
あれはいつのことだっただろうか…
雨の日曜日の夕暮れだった。
縁側に腰を降ろし庭先を見つめながら呟くように歌った。
♪アカシアの雨に打たれて このまま死んでしまいたい…
西田佐知子の歌だった。
亡き妻に想いを馳せていたのだろうか?
なぜ逝ってしまったんだ…私を置いて…
の想いだったのだろうか…
立場の違いこそあれ、僕と同等の感情があったのではなかろうか?
それを想えば、ふっと庭の柿の木の下に
雨に濡れて立っている母を見たような錯覚を覚えた。
父も、僕と同じで、二人の自分を生きていたのだ。