わたしはいつも人の歩む筈の軌道からはみ出し外れてしまうのでした。
自分では制御出来ない内なる余剰なものが、軌道を飛び出させてしまうのでした。
瀬戸内寂聴
純一君、君はある種の裏社会に生きてしまったことは否めない。あえて「ある種」と言ったのは、僕の皮肉だ。表向きは全うだと言えるだろう。その種の人たちは山ほど居るからね。しかも堂々と大きな面をして。仮面とまでは言わないが、大衆、民衆を上から目線で見下して、巧みな言葉で操り信じこませるという、教科書通りの操り術だ。
でも君は、どこかの時点で気付いていたんじゃないのかい?しかし、その時にはもう家族も居ただろうし、役職上でもそれなりの位置にいた。ということは、君は本心に偽り仮面を被ってしまったわけだ。
自慢じゃないけど、逆に僕は、大海に投げ出された木の葉舟のような五年間を送っていたさ。意図的にというほど、カッコいいものではなかったけれど、金に変えられない貴重な宝物を得たと自負している。
「人間の価値は正義感」同じ価値観を植え付けられたはずだ。その監視眼を自らに向けることは出来なかったのかな?己を偽り、他人にはまことしやかに押し付ける。心的詐欺師の典型だと僕は確信する。
極論すれば、この世は騙し騙されの複雑な絡み合いだ。その混沌のなかで、如何に己を見失わないかの闘いだ。「爪上の土」という言葉がある。爪の上に土を乗せてみて、どれだけの土が残るのか?これは、究極の結果論だ。この世で生存中に判る話ではない。
この世の終わり、つまり我が身の臨終の時に、その答は出る。歴然と、まざまざと。