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千代の松ヶ枝

 叔父の誘いに乗って、僕は遥か隠岐の島まで来ていた。港湾建設会社を退職して、独立した叔父の手伝いをたのまれたのである。事務員兼、現場監督兼、ダンプ運転手兼、小型船舶操縦兼、潜水夫の命綱兼、・・・何でもやらされた。

 作業員のほとんどが鹿児島からの季節労務者だった。一日の終わりには飯場で彼らと一緒に飲み食いした。子供のような存在の僕は、みんなに「あきちゃん」と言って可愛がられた。酒には強かったが、彼らの飲む度の強い焼酎には参った。飯場を抜けだして波止場に寝っ転がり、星空を見るのが習慣だった。

 そんなある夜、永田さんが僕に話しかけてきた。他の人たちとはちょっと違う文士のたたずまいの人だった。たぶん他の仲間とは異質な存在だったのだろう。訊けば、故郷では村史の編纂に携わるような立場と聞かされた。

 この出会いから数十年、僕たちは文通をした。筆まめな人だった。日本の何処の地へ派遣されても、手紙をくださった。僕には及びもつかない文人だった。父とイメージが重なった。


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posted by わたなべあきお | comments (0) | trackbacks (0)

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