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背景の記憶(341)

わが家に続く坂道で

両腕をいっぱいに広げて

ヨチヨチ歩きのおまえを待つ母の姿は

すぐ傍で見ていて

羨ましいほどに…悔しいほどに…

慈愛に満ち溢れていた

俺もそうされたにちがいないのに

なぜか…おまえが羨ましかった

         (十歳上の兄からの手紙)

posted by わたなべあきお | - | -

背景の記憶(340)

フランス文学の大学教授になった君を

近所に住むN君が…「あんなフランスかぶれ」と

言い放ったのには、

何か特別な理由があったのだろうか?

そう考えてみれば、

僕にも似たような経験があったような…

同じ合唱団の中で、

彼が「鎌倉」の独唱のチャンスをもらった時の

僕の心

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背景の記憶(339)

夏に帰省すると

父はかならずこう言った。

「やれ、帰ったかい、水浴びんかね」…と。

昔のことだからシャワーもない時代

「行水」とも言った。

酷暑の続くこの夏。

ふと父の言葉がよみがえる。

寡黙だった父の最大の愛情表現だった。

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背景の記憶(338)

K子は二十歳にしてT家の長男の嫁となり、懸命に仕え、かいがいしく家庭を守り続けた。
しかし主人の親の死去に伴い、噴出してきた遺産相続の争いに巻き込まれた。
嫁の立場の彼女は、ただ離れた場所からその成り行きを見守るしかなかった。
結果、父母の面倒など何もしなかった夫の兄弟姉妹たちが、当然の権利とばかりに
財産を奪い去って行った。

そこへ追い討ちをかけるように、夫の不倫が発覚した。当然ながら夫を問い詰めたが、
逆に開き直りの反応しかなかった。K子は絶望した。何のためのこれまでの人生だった
のか?と。

堪らなくなったK子は家を出て、ホテルに逃げ込んだ。そうでもしなければ、自分が
壊れてしまうと思った。ホテルで暮らした数日後、絶望の中でもわずかな落ち着きを
取り戻したK子は、心に浮かんだA夫にメールを送った。「話を聴いてください」
切実な願いだった。

posted by わたなべあきお | - | -

背景の記憶(337)

♪名前も知らない あなたと私
 なのに不思議ね 胸がときめく
 恋はこうして 生まれるものなのね
 教えてほしい あなたのすべてを
 今宵ひとりで歌う あなたへの歌
……………………………………………………………………………

カラオケ🎤🎶がブームの頃

あるスナックでよく逢う女性がいた

名前も知らないし、グループも違ったのだが

歌う歌の傾向が似ていた

僕の歌に一際拍手を送ってくれた人だった

その店が閉店時間となって、タクシーを呼んでもらったら

ママが「なべちゃん、一軒付き合って」と言った

そしたらその彼女も乗り込んできた

ママは何を考えたのか?何を企んだのか?

僕には理解不能だった

行き先は店を終えたママたちがよく行く店らしく

深夜だというのに大流行だった

鈍感な僕は、ママたちの企みを理解するのには

かなりの時間を要したのだった

posted by わたなべあきお | - | -

背景の記憶(336)

     ♪青い青い 月の下で
      君に告げた 愛の言葉
      好きと云われ 好きと云った
      あれは夢か 遠い夢か

      青い青い 月の下で
      君は誰と いまは暮らす
      僕にもどれ 君よもどれ
      みんな夢か 遠い夢か

………………………………………………………………………

湖の干拓地、区画整理が施され、道路や跨線橋か出来た
 
車も通らず人も通らない、街灯だけがあかあかと点っていた

暗闇を作る跨線橋の下が、僕たちの逢瀬の場所だった

許されたわずか十分足らずの逢い引き 

鮮やかに甦るはるか遠い昔の青春

posted by わたなべあきお | - | -

背景の記憶(335)

 半世紀以上も前の記憶をベースにして、面影を追いかけているなんて、滑稽極まりなく笑いもんだろう。己れを鏡で見れば、否応なしに分かろうというもんだ。遠い昔のあの頃、描いていた夢や希望が、当時のものとは全く別物に変化したことを、当時の僕が知る由もない。お人好しと言えば、そうとも言えるし、鈍感男と言われれば、それを自認するしかない。儚い夢追い人というわけだ。

 再会場面を想定する。僕はあの頃のままの僕なのに、貴女は、君は、とんでもなく別人だ。逆に僕自身もそう映っているのだろうか。こんだけ変わんないと思っているのに。人生の書き換えは出来やしない。双六ゲームのように、振り出しに戻って再出発なんて出来やしない。タイムトンネルでもないかぎり。

 夢の中で、じゃんけんを求めた君は、まるで幼子のような自然な笑顔だった。何のためのじゃんけんだったのか、確かめもせずに僕はパーを出していた。負けると確信して、君を勝たせようとして、そして君の要求を丸々受け入れようとして。でも君は違った。後出しじゃんけんで!君はグーをだしたのだ。僕の心が読まれたのか、明らかに意図的な負けのじゃんけんだった。あり得ないと思った。なぜ?と思った。それが貴女の最大限の優しさだったと気付くのに、僕は随分と時を要した。そんな愛情表現もあるのかと涙した。

posted by わたなべあきお | - | -

背景の記憶(334)

【ブッシュのアメリカは、半世紀前から少しも進歩がなかった。世界中どこでも強大な武力を背景に、自分の言い分を押し付け、ままにならなければ、冷酷に圧しつぶして主張を通してしまう。このやりかたにすこしでも見識の都合がなくなってしまったときは、悲惨なことになるとおもう。これはソ連がほぼ一世紀のあいだ、知識の世界におしつけてきた迷信が悲惨をまねいて、いま崩壊にさらされているのと同じだ】

これは湾岸戦争(イラク)の時のことを書いた吉本隆明氏の記事だ。ブッシュをトランプに、ソ連をロシアに置き換えるだけで、この文章が違和感なく受け止められる。時代は繰り返される。進歩なんて無い。

posted by わたなべあきお | - | -

背景の記憶(333)

    木の葉船

四人は横一列に並んで、冬の坂道をコツコツコツと歩いた。
両手の親指をジーパンのポケットにつっこみ、まるでビートルズかストーンズかのように。
昭はヘアスタイルもファッションもミックジャガーそのものだった。
裁縫が得意でジーパンも体型にピッタリにしてしまう腕前だった。
誠はスタローン似で目鼻立ちは酷似だった。
ワタベは顔も体型すらもまさに猪八戒そのものだった。
問題は僕だ…何の特徴もない…凡人極まりない…ただのプー太郎。
頬はこけ、痩せ細り、顔には不自然な長髪が辛うじて時代を象徴していた。

六畳一間のアパートには不釣り合いな、昭が持ち込んできたステレオセットで
ストーンズやディープパープルの曲を聴いた。
それぞれが目をつむりタバコをふかしながら自分の世界に入り込んでいた。
三人は三人とも個性的に見えたが、ただの未熟少年の延長だったのかも知れない。
僕も似たようなものではあったろうが、そこまでの生い立ちが彼らとは決定的に違って
いた。
でも…みんな世間に拗ね、家庭の温もりに飢えているのは共通していた。
おそらくは、僕だけがそうしたヒッピー感覚に、意識的に酔おうとしていたのかも
しれない。

四人は同じバイト仲間だった。
いわばデパートの裏方で、手動式エレベーターの操作役をしていた。
大方は大学生や浪人生で、僕たちはまさに除け者的存在だった。
後から思えばヒッピー的だったわけだが、アメリカの彼らとはまた異質で、
やはり真似事をしていただけなのかもしれない。
後から思えば、あの漂流時代こそが一個の人間の創成期だったと確信する。
黒い渦が逆巻き流転していた。その激流の中に漂う木の葉船のように僕たちは生きた。

posted by わたなべあきお | - | -

背景の記憶(332)

  ナイチンゲール

心的原因と思われる

僕の異変に気付いたあなたは

「私が治す!と宣言した

「必ず治す!」と。

看護服も勇ましく

野戦病院を開設したのだった。

寺田一子.jpg

posted by わたなべあきお | - | -

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