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背景の記憶(202)

ある日のこと、社長夫人に声をかけられた。もちろん他の社員には分からないようにだが・・・。夜にというわけにもいかないので、勤務中だけど一時間だけ何とかなりそうなので、会社からはちょっと離れた喫茶店で会うことにした。

そのころにはもう僕への疑いの目はなくなっていて、むしろ好意的に受け止められていた。それに探りを入れるというようなものでもなく、奥さんなりの悩みの吐露と受け止めた。「こんなこと誰にも言えるわけじゃないのでね・・・嫌な事聞かせてごめんなさいね・・・」

僕はひたすら聞き役に徹した。23歳の人間にしては、僕には凝縮されたような強烈な体験が刻み込まれていたから、こんな話もすっと受け入れられる何かが僕の中には存在していたようだ。

意見とか忠告とか、そんなものは必要ない。そう思って僕は真剣に奥さんの話を聞いた。心の中では(こんなイイひとを悲しませちゃいけないなぁ・・・)と呟いていた。

「なんか・・・話したら、ちょっと気が楽になったわ。ごめんなさいね、仕事中に・・・」僕は「立場上、どっちがどうというようなことは言えないですけど、事の善悪くらいは分かっているつもりです。僕がこんなこと言うのもなんですが・・・明るく生きてください。きっといい結末がやってきますよ」と言って奥さんと別れた。

ハンドルを握りながら・・・「世の中、教科書通りにかいかないもんだな」とわけの分からない言葉を反芻していた。その年までの僕の教科書と言えるものは、いささか純粋過ぎたものだったのかもしれない。

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背景の記憶(201)

女性特有の言動に、驚かされ、戸惑い、翻弄される。まるでそんな僕を見て、楽しんでいるかのようにさえ思えてしまう。

「横顔が好き!っちゃね〜」助手席の彼女がそう言う。僕の顔が赤くなる。自分の本当の顔は、自分んでは見られない。鏡に映る自分は、彼女が見る僕ではない。ほとんど準備のできない間に、どんどん彼女との距離が狭まってゆく。

職場での彼女は快活そのものだった。電話の受け答えも事務処理もテキパキとしていて小気味よかった。他の男性社員にも分け隔てなく接していた。でもふたりのとき、その真逆の面を見せられて、僕は戸惑った。超ミニスカートで子供のように無防備だった彼女が、どんどん大人の女性に変化してゆくのを、僕は驚きの眼差しで確認させられた。

彼女は小柄だった。140センチ台ではなかったろうか。同郷の高田みずえ似で涼しい瞳の持ち主だった。彼女の書く字は、躍動するような快活文字だった。左利きを直されて、角々とした字しか書けない僕はちょっと嫌悪した。しかしそんな僕を彼女はむしろ褒めてくれた。「字は性格が現れるんやね〜。」彼女にはどんな風に受け止められていたのだろう。

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鎖国

真実っていうのは、語られないものなんだな。

資本主義、自由主義、民主主義・・・聞こえは良いが

内実は、どうもそうでもないらしい。

地球的規模においてさえ、ごくごく一握りの資本家、政治家たちが

今度はどこで、独裁打倒とか自由奪還の名のもとに戦争をおっぱじめようかという

わけだ。

新技術は当然、次の新技術へと繋がるわけだから際限がない。

古い爆弾をどこで使ってしまおうか。

新しい兵器をどこで試そうか。

これでは、地球を舞台にした戦争ゲームだな。

イノベーションがちっとも人間にやすらぎをもたらさない。

カダフィやフセインやムバラクの時代の方が良かった〜になる。

もっとスローに行こうよ・・・てならないのかな。

僕の極端論〜「鎖国しよう!」

「百姓しよう!」

「自給自足で行こう!」

「だめなら、土の肥しになろうぜ」



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僕自身

「背景の記憶」って、何を書いてるんだ?・・・って思われていると思う。

過去の思い出? 青春の残像?


何て言えばいいんだろう・・・

過去の自分の中に限りないパワーを見出すんだろうな。

お世話になった人たちや

支えてくれた仲間や

何よりも

僕を真底愛してくれた人たちへの感謝かな。


心的には・・・

僕は、<少年の心>を持ち続けたいと思っている。

幼稚と笑われてもいい

甘いと蔑まれてもいい

これが・・・僕自身なんだから・・・28.1.13-2.jpg

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背景の記憶(200)

「いいですよ。次の日曜日でいいのかな?」
「よかった!ありがとう!おねがいします!」ほんとうに快活な娘だ。
「ところで・・・なんだけど・・・」なにか言いにくそうな雰囲気だ。
「実は、社宅と言っても社長の自宅兼ショールームの建物の一部屋に住まわせてもらってるわけよね。・・・で、最近夫婦間の口論が絶えないわけ・・・」
「・・・で、わたなべさんは知ってると思うんだけど、社長とあなたを紹介した人は、実は高校時代の同級生で・・・ん〜ん、はっきり言えば、不倫関係にあるわけ」


「えっ、そうなんや・・・知らなかったと言うべきか、聞かされてないよと言うべきか・・・言われてみれば、なんか風当たりがキツイようにも感じるなぁ〜、でも僕にはどうでおいいことだけどね」
「ところがそうもいかないのよね。スパイみたいに思われてるから・・・もう一人、むこうの課のMさん(女性)もそうなのよ。」
「わたしはね、わたなべさんのこと真面目ないい人だって言ってるんだけどね。喧嘩の渦の中で暮らすのはもう限界なのよね、分かってもらえるでしょ?」
「わかったけど、でも・・・秘密裏にってわけにはいかないだろう?」
「大丈夫!奥さんには私からちゃんと言っておくから」

次の日曜日、半日で引っ越しは終わり、帰るつもりでいたら「お礼に、ちょっとご馳走ってほどのものはできないけど、急いで作るから食べていって!」九州の女性は概してこうなのかな・・・すっかり彼女ペースだ。すると隣の部屋の女性が顔を出して、「こんにちは〜!はい、これ・・・頼まれてたやつ」と言ってなにやらを一皿持ってきた。そして僕の方をチラッと見て、「言ってた通りの人ね。」と僕にも聞こえるように話して部屋を出て行った。

夕方ちかくになって、小さなテーブルに向い合せに座ってビールで乾杯した。短時間で作ったにしては、かなりの腕前の料理で僕は半分ビックリ状態だった。「大したことしてないのになんだか申し訳ないね」と言うと、彼女は「ううん、こういう場面が夢だったの、わたしはとっても嬉しい!さあもっと飲んで!」

ほろ酔いになったころ、彼女がすっと立ち上がって、蛍光灯の紐を引っ張った。とても自然な動きに思えた。薄暗い部屋の中で、僕は立ったままの彼女に上から見つめられる感じになった。こどもっぽいイメージの彼女から大人びた雰囲気の女性に変わって感じられて、僕の女性恐怖症はどこかへ消え失せてしまったように思えた。

腕の中の彼女が呟いた。「来月の23日が私の誕生日なの。その日、外で祝ってくれる?約束ね!」そう言って彼女は勢いよく立ち上がり電気を点けた。

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背景の記憶(199)

 そういつまでもプゥ〜太郎もやってられないということで、僕はタイピスト学院の先生の紹介で、就職することになった。(アメリカ行きのために英会話とタイピスト養成の学校に通っていたのだ。今ならパソコン教室というところか)
 あいかわらず女性恐怖症(?)は続いていて、僕は営業ではなく、会話の少なくて済む技術的な分野を希望した。想定通りの展開で、僕は無難なスタートを切った。

 半年くらい経ったころ、事務所内の組織替えや配置転換があり、2課制になった。僕の所属した課には高校卒業して一年も経たない女の子が配属された。鹿児島
出身でまだ少女っ気の抜けない可愛らしい子だった。朝礼が終われば、夕方まで事務所には帰らない仕事だったから、ほとんど接点はなかった。当時はまだポケベルの時代で、よほどの緊急時でなければ、僕のポケベルが鳴ることはなかった。

 ある日の夕方事務所に帰ると、連絡メモの中に私的なものが含まれていた。彼女からのもので、開いてみると「バス停の近くの喫茶店で待っています」と書かれていた。五才違いでも今度は僕が年上だ。明るくて快活な彼女が何の用なんだろう?と不思議に思いながら、報告書を急いで書き終えて、指定された場所へ急いだ。

 制服を脱いで私服に着替えた彼女は、ちょっと大人びて見えた。呼ばれた意味が見当つかずでかしこまっていると、彼女の方から切り出した。「私はすぐに分かったんだけど、どうして営業じゃないんですか?電話とか聞いてたら、ゼッタイ営業向きだと思うんだけどな・・・」実は・・・とも言えず、僕はただ「人とあまり喋りたくないんだ」と答えた。そして「何か?」と尋ねると・・・

 「今、社宅にいるんだけど、アパートに移ろうかなって思って・・・で、わたなべさんに引っ越しを手伝ってもらえないかな〜ダメ? 家具とか荷物といっても、小型トラック1台で十分なの」

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背景の記憶(198)

 寄りかかってしまえば、そのまま安住の生活が待っていた。裸一貫でも何とかなる〜そんな時代でもあった。思ってくれて養ってもくれる〜そんな年上の女性がいた。わざわざ博多から京都まで迎えに来てくれて、列車に乗りさえすれば、そこから新しい生活が始まる・・・段取りだった。彼女のシナリオでは・・・。


 でも、僕の答えはノーだった。ギリギリの選択。僕は22才、彼女27才。

「どうして、いつもそうして・・・苦しい方ばかり選ぶの?」

 どうして?と言われても分からない。自分の中の何かがそうさせる。すぐそこに母のような温もりがあるのに・・・とろけるような安らぎがあるのに・・・。

まさしく「22才の別れ」
♪あなたにサヨナラって言えるのは今日だけ
 明日になってまたあなたのあたたかい手に
 触れたらきっと言えなくなってしまう
 そんな気がして・・・・

 自分でも恐ろしくなった・・・<心的テクニック>との訣別。

翌年・・・

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背景の記憶(197)

 祖母や祖父ががいた。父もいた。だが、母だけがいなかった。
 母のようにふるまっていた人は確かに存在していた。その人は、限りなく本物に近い母として彼を扱い、愛し、抱きしめてくれた。だが、それが本当の母ではなかったことを自分はおそらく、乳児のころから気づいていたのかもしれない、と彼は思う。
 いい子だ、と周囲から言われることは日常茶飯だった。そして、そう言われる子供になろうとする努力を惜しんだことはなかった。
 たいていのことは我慢してきた。わがままを言ったり、利己的になったり、人を傷つけたり、感情の起伏を人に見せたり、いたずらに逆らったりせず、できるだけにこやかに、温厚に、他者とぶつからないようにして生きてきた。
 すくすくと健やかに育った、とみんなが思っている。こんな扱いやすい、性格のいい子はいなかった、と誰もに思われている。父も、祖父母も、育ての母も、・・


           「存在の美しい哀しみ」 小池真理子

小説の中に・・・

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虚言癖

虚言癖の人・・・これはなかなか厄介だ。

何せ本人に、その自覚がないからだ。

あることないことごっちゃまぜで、実しやかに宣う。

「わたなべさんが、こんなこと言ってはった」

本人のいないところで、実名をあげてやられると

名誉回復には時間がかかるし、時にはそれも困難に陥る。

「だって・・・ホンマのことやもん!」

この決め台詞が怖い!

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真逆

外観と中身が一致する人は希と言っていいかもしれない。

話してみて、「へぇ〜、この人そうなんだ」という人は意外と多い。

こちらが壁と感じている人でも、壁の向こうには共通項や意外性を有した人が

多いのに驚かされる。

人間を食わず嫌いとと言っては失礼な話だが、飛び込んでみるのも悪くない。

僕は、誘導尋問的なテクニックは嫌いだが、<一を聞いて十を知る>くらいの

器は持しているつもりだ。

物事は、特に人間は、平面的に捉えては失敗する。

多面的に、あるいは全方位的にと言うべきか、あらゆる角度からの視点を持たなけ

ればならないと痛感する。

雄弁、多弁なる者に、大いなる落とし穴あり・・・これはかなりの確率で正解だと

思うのは僕だけだろうか。

訥弁で、時に言葉に詰まったりする人の挨拶に、好感を抱くのは僕だけだろうか?

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posted by わたなべあきお | - | -

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