背景の記憶(201)

女性特有の言動に、驚かされ、戸惑い、翻弄される。まるでそんな僕を見て、楽しんでいるかのようにさえ思えてしまう。

「横顔が好き!っちゃね〜」助手席の彼女がそう言う。僕の顔が赤くなる。自分の本当の顔は、自分んでは見られない。鏡に映る自分は、彼女が見る僕ではない。ほとんど準備のできない間に、どんどん彼女との距離が狭まってゆく。

職場での彼女は快活そのものだった。電話の受け答えも事務処理もテキパキとしていて小気味よかった。他の男性社員にも分け隔てなく接していた。でもふたりのとき、その真逆の面を見せられて、僕は戸惑った。超ミニスカートで子供のように無防備だった彼女が、どんどん大人の女性に変化してゆくのを、僕は驚きの眼差しで確認させられた。

彼女は小柄だった。140センチ台ではなかったろうか。同郷の高田みずえ似で涼しい瞳の持ち主だった。彼女の書く字は、躍動するような快活文字だった。左利きを直されて、角々とした字しか書けない僕はちょっと嫌悪した。しかしそんな僕を彼女はむしろ褒めてくれた。「字は性格が現れるんやね〜。」彼女にはどんな風に受け止められていたのだろう。

posted by わたなべあきお | - | -

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