背景の記憶(198)

 寄りかかってしまえば、そのまま安住の生活が待っていた。裸一貫でも何とかなる〜そんな時代でもあった。思ってくれて養ってもくれる〜そんな年上の女性がいた。わざわざ博多から京都まで迎えに来てくれて、列車に乗りさえすれば、そこから新しい生活が始まる・・・段取りだった。彼女のシナリオでは・・・。


 でも、僕の答えはノーだった。ギリギリの選択。僕は22才、彼女27才。

「どうして、いつもそうして・・・苦しい方ばかり選ぶの?」

 どうして?と言われても分からない。自分の中の何かがそうさせる。すぐそこに母のような温もりがあるのに・・・とろけるような安らぎがあるのに・・・。

まさしく「22才の別れ」
♪あなたにサヨナラって言えるのは今日だけ
 明日になってまたあなたのあたたかい手に
 触れたらきっと言えなくなってしまう
 そんな気がして・・・・

 自分でも恐ろしくなった・・・<心的テクニック>との訣別。

翌年・・・

姓の代わった彼女から暑中見舞いが届いた。

相変わらずの流れるような達筆で

個人的感情を押し殺した様な葉書だった。

住所には番地は書かれていなかった。

posted by わたなべあきお | - | -

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