「いいですよ。次の日曜日でいいのかな?」
「よかった!ありがとう!おねがいします!」ほんとうに快活な娘だ。
「ところで・・・なんだけど・・・」なにか言いにくそうな雰囲気だ。
「実は、社宅と言っても社長の自宅兼ショールームの建物の一部屋に住まわせてもらってるわけよね。・・・で、最近夫婦間の口論が絶えないわけ・・・」
「・・・で、わたなべさんは知ってると思うんだけど、社長とあなたを紹介した人は、実は高校時代の同級生で・・・ん〜ん、はっきり言えば、不倫関係にあるわけ」
「えっ、そうなんや・・・知らなかったと言うべきか、聞かされてないよと言うべきか・・・言われてみれば、なんか風当たりがキツイようにも感じるなぁ〜、でも僕にはどうでおいいことだけどね」
「ところがそうもいかないのよね。スパイみたいに思われてるから・・・もう一人、むこうの課のMさん(女性)もそうなのよ。」
「わたしはね、わたなべさんのこと真面目ないい人だって言ってるんだけどね。喧嘩の渦の中で暮らすのはもう限界なのよね、分かってもらえるでしょ?」
「わかったけど、でも・・・秘密裏にってわけにはいかないだろう?」
「大丈夫!奥さんには私からちゃんと言っておくから」
次の日曜日、半日で引っ越しは終わり、帰るつもりでいたら「お礼に、ちょっとご馳走ってほどのものはできないけど、急いで作るから食べていって!」九州の女性は概してこうなのかな・・・すっかり彼女ペースだ。すると隣の部屋の女性が顔を出して、「こんにちは〜!はい、これ・・・頼まれてたやつ」と言ってなにやらを一皿持ってきた。そして僕の方をチラッと見て、「言ってた通りの人ね。」と僕にも聞こえるように話して部屋を出て行った。
夕方ちかくになって、小さなテーブルに向い合せに座ってビールで乾杯した。短時間で作ったにしては、かなりの腕前の料理で僕は半分ビックリ状態だった。「大したことしてないのになんだか申し訳ないね」と言うと、彼女は「ううん、こういう場面が夢だったの、わたしはとっても嬉しい!さあもっと飲んで!」
ほろ酔いになったころ、彼女がすっと立ち上がって、蛍光灯の紐を引っ張った。とても自然な動きに思えた。薄暗い部屋の中で、僕は立ったままの彼女に上から見つめられる感じになった。こどもっぽいイメージの彼女から大人びた雰囲気の女性に変わって感じられて、僕の女性恐怖症はどこかへ消え失せてしまったように思えた。
腕の中の彼女が呟いた。「来月の23日が私の誕生日なの。その日、外で祝ってくれる?約束ね!」そう言って彼女は勢いよく立ち上がり電気を点けた。