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背景の記憶(292)

 僕には養子縁組の話しが絶えなかった。母親が三歳の誕生日の明くる日に亡くなり、その後の継母との間に兄姉の反発(家出)があり、義弟が生まれ、家庭的混乱の中では当然のことでもあった。

 最初は叔父(母の弟)だったと記憶している。戦争の原因(負傷)もあって子供が無かったこともあっただろう。次は中学生の時の体育の先生。何という巡りあわせか・・・入学と同時に同じ中学校に父が赴任してきて、当然のことながら先生方にも生徒の間でも知れるところとなり、なんとも窮屈な通学となってしまった。バスケット部に入ることとなり、その顧問がF先生だった。おそらくは時間外での酒の入った話の中で、私的な打ち明け話の中に家庭内の混乱が話題となったのだろう。F先生にも子供がいなくて養子話に発展したようだった。

 高校時代の途中からは他の記事にも書いたので省略するとして、結果的には親戚のたらい回しとも言える結果となり、他の叔父、叔母の所でほぼただ働きに近い状態で、貴重な青春時代を過ごすことになってしまった。しかし今思えば、一見無駄な遠回りとも思える時代こそが、僕の精神的屋台骨を作ってくれたと言える。これは間違いのないことだ。

 養子縁組に絡んで、当然ながら結婚話も具体化する場面が何度かあったのだが、当時の僕にはそれらは夢物語にしか映らず、生半可な返事を繰り返し独り空想的世界に逃げ込んでいた。あらゆる場面場面に亡き母の亡霊が僕の心を支配し、それらのすべてを拒絶させた。僕はずっと抜け殻のように生きていたわけだ。叔父に「お前は、世捨て人のような奴だな」と謂わしめた原因は此処にあったのだ。

 言葉の上では失恋だが、相手の方に非は無くて、すべては僕個人の責任だ。相手の同情や母性的感情を、そのまま恋愛として受け入れることがどうしてもできなかったのだ。言葉は悪いが<ヒモ的生き方>も可能だったかもしれない。それを赦さない最後の砦は、やはり亡き母の囁きだったのだ。男と女の具体的な場面場面で、母は登場した。囁いた。男の体に変化をもたらした。一見屈辱ともとれる事象に、僕は母の声を聴いたのだ。あれは<魂の叫び>だったのかな。

posted by わたなべあきお | - | -

背景の記憶(291)

失恋は多いほど肥しになると言うけれど

それは後になってから言えることであって

正にその瞬間は絶望と悲しみのどん底にありました。


それにしても、僕をふった(結果的に)女性たちは

大人だったなぁ〜と思う。

僕の後遺症まで心配してくれたんだからな。

さりげないフォローと言うか、薬(?)の処方と言うか

気配りが細かすぎた。


さて、僕個人で振り返れば

子供だった(幼かった)の一言に尽きるのだが

それを早く逝ってしまった母の所為には絶対にしたくない。

大方の人たちが持ち合わせている大きな何かが欠けた存在

しかし、むしろその欠落部分が僕の最大の宝物

そう思えるようになったのも、随分時が経過してからのことだけど・・・


この歳になって

「グッバイ青春」とはなかなか割り切れない自分がいる

大切な宝物

己の中核を構成しているもの

恋の結晶ならぬ失恋の結晶が

今も心の憶測でチラチラと燃えている

貴女の心に同じ灯はありますか?

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背景の記憶(290)

誰よりも多かったはずの貴女の写真が一枚も無い。

しかもそれらをどうしたのか全く記憶が無いんだ。

燃やしてしまったのかどうしたのか・・・

アルバムの中から剥した形跡もないしね・・・

たぶん、貴女だけのアルバムだったと思うよ。

相当なショックだったんだろうな。

記憶が飛ぶくらいだから。

「結婚」

あの時ほど、♪「22歳の別れ」を切に実感したことはなかったよ。

♪・・・・・・・・・・・・
 今はただ五年の月日が
 長すぎた春といえるだけです
 あなたの知らないところへ
 嫁いでゆくわたしにとって

 ひとつだけこんなわたしの
 わがままきいてくれるなら
 あなたはあなたのままで
 変わらずにいてくださいそのままでABT15C11E229E6155CF595267C7B986C1C7B90D3DE095EFE47B1827BA66408E2C13.jpg

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背景の記憶(288)

「笑顔良しのあきちゃん」いつでも誰からもそう言われた

確かに目が二本の線になるほど、いつも笑っていた

でも、誰一人としてその心の奥にある涙は知らなかった

いやむしろその涙を見せまいとするための作り笑顔だったのだろう

表面上の慰めや思いやりがたまらなく嫌だった



ちょっと大きくなって、幾分おませになったころ

そんな思いやりを嬉しく思うようになった

一種の翳りみたいなものが、異性の心を掴んだ

その翳りの源を突き止めたかったのか

単なる異性感情だったのか

とにかく僕は異性の優しさに包まれて幸せだった

でも、心の奥底では例のピエロ性は燻り続けていた

母性愛とはそれほどまでに比較し難い深さと重さを秘めていた


年齢にそぐわない幼児性が、心のバランスを奪った

それが逆に相手を燃えさせもし、驚かせることにもなった

恋愛感情と母性的感情のごっちゃまぜのようななかで

僕の青春時代の前半は過ぎて行った


分岐点は何だったんだろう、何時だったんだろう

能動的、受動的・・・その両方の別離が

僕を本物の男としての自立へのきっかけとなった

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背景の記憶(287)

本土から遠く離れた小島の磯辺

小舟の縁に腰掛けて

満天の星空を見上げた

言葉を失うくらい・・・

壮大な宇宙の絵巻物に圧倒された

手を握り

肩を寄せ合い

そのまま星空に吸い込まれるような・・・

あのころが幸せの絶頂だったのかな

悲しい別離なんて

これっぽっちも思わなかった

不甲斐ない、決断力のない、意気地なしの僕

明るく軽やかに、グイグイと引っ張る君

あのまま付いて行けばよかったのかな・・・

「どうして、そんなに苦しい方へ苦しい方へ行くの?」

明確に答えるだけの根拠が見出せなかった

ただ・・・

ただ・・・

男としての変なプライドみたいなものが

目の前の温もりを、優しさを遠ざけて行った



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背景の記憶(286)

 高台の1Kの安アパート。窓を開けると遠くに京都タワーが見え

夜景が美しかった。部屋には、ボストンのステレオセットが、畳一帖分

を占め、テーブル代わりの電気コタツ、そしてフォークギターが一本。

階段の出口壁には、逆光に浮かぶシルビーバルタンの横顔の大型ポスター。

春夏は畳にそのまま眠り、秋冬は寝袋に潜り込んで寝た。はるか遠い

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背景の記憶(285)

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六帖一間の安アパートで

寝袋に包まって眠った

懐かしい友の顔が虚ろな心の中を占領した

夫々の思い出が温もりとなり

僕はやがて深い眠りに落ちて行った

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背景の記憶(284)

     職員室 2


みんなが何か被っている
水のように物がいえない

だれかがその圧苦しさを越えようとする
甚だしく卑屈に歪んだ語感がある

それをきっかけに
必然性のない観念論が同乗していく

なにかなじまぬもの
清れつでないもの

消化不良の内臓がかきむしる
混濁血液の錯流だ

不協和音は素通りしていきなさい
私の頭はますますひっこまる


           渡部 一夫

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背景の記憶(283)

      職員室

すべての個人的なものが否定される
・・・なんという冷たさだ

どんなに自分だけの真実があろうと
職員室の壁は開いてはくれない

言葉を取り繕おうとするよりかは
出来るだけおし黙っていた方が
かしこいんだよ

真からそれを案じてくれる情(こころ)のないことは
分かりきっているんだから
無理におつきあいで吐き出す言葉だって
みんな自分の身に弁解の蜘蛛の巣を
ぐるぐる巻くことでしかないんだから
苦労話なんかには
職員室の天井は高すぎるんだよ

いやその苦労話にしたって
ほんとに訴えなきゃならぬ根拠があるかないかさえ
あやしく
煙のように薄れていってしまうんだから

だが
この圧迫するもの


この表べだけを「同情」につくって
圧迫してくるものを
どこかで
がっちりと
握る手はないものであろうか

とにかく
そこは
冷徹きわまりなき情(こころ)の刑場(しおきば)

                (渡部 一夫)

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背景の記憶(282)

君は無理にきつい言葉を使って

二人の間にラインを引いた

自らに言い聞かせるように・・・

そのラインは何重にも重なって

太く深い溝を形成した

飛び越えられないくらい・・・

飛び込んでも泳げないくらい・・・

温かい泪の河に溺れようかとも思った

それを遮る君の瞳の威圧に

僕は現実に押し返された

それほどまでの思惑だったとは分からなかった

恨ませて・・・憎ませて・・・

そこまでさえも計算の上だったとは・・・ね

僕よりはるか先を走って

ぐるぐると引きずり回して

息切れするこらい探し回らせて

とんでもないご褒美を用意して

驚く僕を笑って覗き込んで

すっと消えてしまった

何なんだよ

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