山陰の松江から京都に脱出?してきたのが二十歳の時だった。もちろん組織の追
っ手はいたのだが、僕如き下っ端人間は、それほどの執拗な追跡は無かった。叔母
の家での生活が落ち着いた頃、僕はあるコンサートに出かけた。西岡たかしと五つ
の赤い風船。
リーダーの軽妙な喋りも楽しかったが、僕は紅一点の<藤原秀子>の歌声に魅了さ
れた。なんとも奥深いと言うか、哀愁が漂う歌声と言うか・・・。感動した。
♪遠い世界に旅に出ようか
それとも赤い風船に乗って
雲の上を歩いてみようか
太陽の光で虹を作った
お空の風をもらって帰って
暗い霧を吹き飛ばしたい
僕より二つ年上の彼女も10年前に亡くなっている。
あれからもう半世紀以上、時が経過している。不思議なもので、つい口ずさむ
歌がこれだったりする。
様々な自己紹介欄に書いている通り、
「人生はいつも青春 いつも心のさすらい」
傍から老人視される男の心の片隅で、青春の名残の灯が
チロチロと燃えている。
あの頃の日記帳になんとも稚拙な詩がある。
♪あの雲の向こう
あるという泉
忘れ得ぬひとに
巡り合いたい
どうぞ忘れないでと
あなたは言った
忘れるもんか
君だけなのに
あああ、僕だけの君なのに
※この詩には稚拙な曲が付いている。
後に彼女に聞かせたら「西郷輝彦の唄に似てる」と言われた。
たしかに・・・。これまた模作だけのことはある。
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