<< 2015/08 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

背景の記憶(178)〜原爆忌〜

     夏

一人の兵士が帰ってきた。
大男の
ちょっと眉をしかめた
愛くるしい童顔の彼は
前の家の近くだった。

「やあ、帰ったかかね。早かったね。
 どこにいたの」
「広島です」
「ふーん、あそこはえらい爆弾が落ちたというのに
 いい調子だったね」
「はい」
・・つい、二、三日前の新聞で「新型爆弾か」という
記事を見たばかりだったから
私はこころから祝福した。

愛くるしい童顔の彼が
あまり見えないので
どうしたやら
ちょっと聞いてみた。

だれかがいった。
帰った一週間ほどは
何ともなかった。
やがて血を吐きだした。
血を下した。

帰ってから
十日ほどで
ちょっと眉をしかめた
愛くるしい童顔の大男は
消えてしまった。

        (渡部一夫)


27.8.6-1.jpg

posted by わたなべあきお | - | -

▲page top