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背景の記憶(321)

    忘れしゃんすな

 テレビに映し出される港風景、何気なく観てしまうが、僕にはそれなりの感傷も

ある。僕が幼いころ、生まれ故郷の隠岐の島は、まだまだ岸壁施設が整ってはおら

ず、大型船は湾に入ってくると、その真ん中あたりで停まり、陸から迎えの手漕ぎ

船が行って、客と荷物を降ろすという状態だった。父のすぐ下の弟の叔父さんが、

その回漕店を営んでいて、僕の兄も一時期お世話になった。

 昼間や海が凪いでいる時は、ちょっとした風物詩的趣があったのだが、深夜や時

化の時はかなりの難行であったようだ。稀に人や荷物が海中に落ちてしまったとい

う話も聞いたことがある。夜中着の場合は、湾に入ってきたところでボーー!と

汽笛が鳴って、仮寝の布団から抜け出して作業に取り掛かると聞かされた。

 そうした時代の十数年後、僕自身がそれに関連した波止場づくりの仕事で帰郷

するとは思いもしなかった。これも縁というものだろう。超大型船ですら接岸できる

ほどに整った港町に、もう昔の面影はない。船が離れるとき、隠岐民謡の「しげさ

節」が流れ、別れのテープが舞う光景は、昔では考えられないことだ。


♪忘れしゃんすな 西郷の港 港の帆影が 主さん恋しいと 泣いている・・・


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背景の記憶(320)

     教 師

 僕には運命づけられたものがあった。それは「教師」。父も、母側の叔父二人も叔母も従兄も・・・ほとんどが先生一家だった。我が家では、その筆頭だった兄が心の病で脱落してしまったので、当然のように僕にその順番が回ってきた。

 中学校入学の時、同じ学校に父が赴任してきて、僕は何とも息苦しい三年間を過ごすことになってしまった。高校入試の願書提出の時、僕が「工業高校、建築科」を志望したら、担任が「とんでもない!君は松江南高校へ行って、教育大学に進まなければ!」と言って拒否された。先生方や同級生たちの目があるから、優等生を演じる自分がいて、中学の三年間は精神的監獄みたいなものだった。

 高校入試はかなりの高得点で、県下でも何十番とかで合格した。知る立場にあった父がそう教えてくれた。

 しかし、人生の流転とはまさにこのことで、それからの七年間、怒涛の荒波が待ち構えていた。


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充実度

数年前までの日常が、今日の非日常になっている。

そのじわじわと押し寄せる変化に、どう順応して行くかに戸惑う自分がいる。

暇と捉えるか?天から頂いた休息と受け止めるか?

心の持ち様で、今日のこの日の充実度が変わる。

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背景の記憶(319)

     アナウンサー

 今思えばの話。小学生の時、僕の未来は見えていた。僕の通っていた小学校が

当時、視聴覚教育のモデル校となり、真新しい放送設備が完備された。そして

放送部なるものが出来て、僕は技術部門ではなく、アナウンサーに選抜された。

皆が給食を食べている時、「みなさん、こんにちは!今日は○○の話題をお届け

します。」とやっていた。

 担任の先生の推薦であったそうだが、同学年の生徒が500人以上もいる

団塊世代、その中での選抜は今でも不思議に思っている。これまた学校の推薦

もあって、NHK松江放送局で色々と放送のイロハを教えてもらった。あれは

夏休みであったろうか、放送教育の全国大会なる催しがあって、全国から沢山

の先生方が来られた。僕は女の同級生と一緒にバスに乗り込み、出雲地方の

名所の案内役を任された。バスガイドさんが優しい眼差しをくれたことを、

今でも懐かしく思い出す。この経験を踏まえると、僕の将来はアナウンサー

だったのかもしれない。

 中学に入って最初の国語の授業の時、先生からいきなり「ワタナベ、1ページ

目、読んでみろ!」と言われて、草野心平の詩を大きな声で読んだ。「瑞々しい

けやきの若葉を透いた光が・・・」先生は瞑目して聞いていた。しばらくして

「うん!<間>がいいな・・・その<間>がいい」と独り言のように呟いた。

僕はアナウンスの経験が生きているなと思った。誇らしくもあった。ニュース

を読む時と同様、目は二、三行先を読んでいるのだ。

 もし、此処を人生の出発点と位置付けるほどの立志があったなら、僕は間違いな

くNHKかどこかのアナウンサーに成っていたであろう。

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それでもいつか

歌と同じシチュエーションが現実の僕にも現出するわけで・・・。

作詞者も同じ経験の持ち主なのかと、感慨に浸る僕がいる。

どこまでが許されて、どこからが危険で罪なのか・・・。

薄々解かっているから、きちんとブレーキは踏むし、バックもする。

数十年も前のことが、昨日のことのように思い出される。

それでもいつか・・・・・・・・・・・・・・・


♪何気ない毎日が 風のように過ぎてゆく
 この街で君と出会い この街で君と過ごす
 この街で君と別れたことも
 僕はきっと忘れるだろう

 それでもいつかどこかの街で会ったなら
 肩を叩いて微笑んでおくれ

 さりげないやさしさが 僕の胸をしめつけた
 この街で僕を愛し この街で僕を憎み
 この街で夢を壊したことも
 君はきっと忘れるだろう

 それでもいつかどこかの街で会ったなら  
 肩を叩いて微笑みあおう

 それでもいつかどこかの街で会ったなら
 肩を叩いて微笑み合おう

    いつか街で会ったなら   中村雅俊

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感傷



過度な感傷は重荷だが、感傷のないところには人間味もない。


                  毎田 周一

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逢いたい人がいる

行きたい場所がある

でもなぜか

鍵がかかっている

通行止めになっている

鍵をかけたのは誰?

鉄柵を置いたのは誰?

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内省

他人様を責める心が

やたらと強い自分がいる

反対に

自分のことを言われたとき

やたらと腹を立てる自分がいる

この両極の自分がなんとも情けない

しばらくは、いや当分の間

自分だけに目を向けなさい

言えないでしょう

他人様のことなんか

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遠い世界

「あなたはいつもどこか遠くを見ている」

そう言われて我に帰る。

一人っきりの時なら未だしも、二人の時はやはりマズイ。

逆の立場になってみれば、その屈辱感は痛いほど分かる。

この性癖は何に由来するのだろう?

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背景の記憶(318)

       処女性

 少々危険な領域の話なんだが、僕の青春時代を語る上では欠かせない領域なの

で、何某かの恥も覚悟の上で書き記しておこうと思う。まず自身の衝撃(感動)か

ら言えば、新婚初夜の明くる朝、ホテルベッドの真っ白いシーツの上の赤い一点を

見た時、ちょっと表現のしようのない感慨と言うか、いい意味でのショックを受け

た。

 そんな僕が数年後、まったく異質な角度からの処女性を突き付けられることにな

った。それはこのカテゴリーのどこかで書いた、引っ越しを手伝った勤めていた会

社の同じ課の女の子から、「自分の誕生日に外で逢ってください」という申し出を

受けたことだ。彼女は五つも年下で、まだ成人前のいわば妹のような存在だったの

だが、持ち前の明るさと勝気な一面が、僕を少々混乱させた。そして<外で逢う>

という言葉に含まれたものに僕の心は少々どころか大いに悩まされたのだった。

 ここで僕の心の中にある<処女性>がズンとのしかかってきたのだった。彼女は

もちろん僕の結婚も知っている。そして近い将来、彼女も結婚することだろう・・

という状況下での話である。僕が古い?男なのか、彼女が進んだ女性なのか?

青春の思い出に!という割り切りが理解できなかった。いやそれ以上に、大好きな

人に捧げたい!という女心が、受ける側の僕としては理解不能だったのだ。

 後に話せば、周りの男どもは、ラッキー!とかうらやましい!とかいうシチュエ

ーションらしいが、僕にはとんでもない重圧としてのしかかってきたのだった。

 結論から言えば、僕は彼女の誕生日祝いの食事をして、彼女からすれば屈辱的な

僕自身からすれば最後の砦を守り、その夜を終えた。具体的言葉にこそしなかった

が、「処女性を大事にしろよ」の思いを込めた結末のつもりだったのだ。もう一つ

加えれば、亡き母の天の声が、僕の精神と肉体を強烈に制御したのだった。時代の

差とは言え、母は18歳で父に嫁いだわけだが・・・。

 半年後、彼女は退職した。同時進行とか時間のずれまでは聞かなかったが、彼と

の結婚のため。送別会となった会社の新年会で彼女とデュエットした。いかにも意

味深な「青春時代」。♪青春時代の真ん中は 胸にとげ刺すことばかり・・・


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