肉体の懸垂よりも
心の懸垂はきつい
まだまだと思っていても
いきなり終焉を迎えるような深い谷を見せつけられる
肉体なら足が震えるとか鳥肌が立つとかあるだろうに
指先の痺れ感は
精神で言えば何だ?
混乱、呻き、錯乱、自暴自棄…
心の涙を何に例える?
五十度を超える焼酎か!
それほどの飛躍の方がその対価に相応しい
川向こうを僕とは逆方向に歩く集団がいる
表情までは読み切れないが、足取りは重く鈍い
彼らに僕の足取りはどう写っているのだろう?
妥協を拒む精神の擁壁
兵糧攻めの残忍さ苛酷さ
顔を覆った両手の指の隙間から
眩しくも優しい光を見いだしたのは何時のこと?
やはりそうでしたか
やはり貴女でしたか
お母さん
【ブッシュのアメリカは、半世紀前から少しも進歩がなかった。世界中どこでも強大な武力を背景に、自分の言い分を押し付け、ままにならなければ、冷酷に圧しつぶして主張を通してしまう。このやりかたにすこしでも見識の都合がなくなってしまったときは、悲惨なことになるとおもう。これはソ連がほぼ一世紀のあいだ、知識の世界におしつけてきた迷信が悲惨をまねいて、いま崩壊にさらされているのと同じだ】
これは湾岸戦争(イラク)の時のことを書いた吉本隆明氏の記事だ。ブッシュをトランプに、ソ連をロシアに置き換えるだけで、この文章が違和感なく受け止められる。時代は繰り返される。進歩なんて無い。
木の葉船
四人は横一列に並んで、冬の坂道をコツコツコツと歩いた。
両手の親指をジーパンのポケットにつっこみ、まるでビートルズかストーンズかのように。
昭はヘアスタイルもファッションもミックジャガーそのものだった。
裁縫が得意でジーパンも体型にピッタリにしてしまう腕前だった。
誠はスタローン似で目鼻立ちは酷似だった。
ワタベは顔も体型すらもまさに猪八戒そのものだった。
問題は僕だ…何の特徴もない…凡人極まりない…ただのプー太郎。
頬はこけ、痩せ細り、顔には不自然な長髪が辛うじて時代を象徴していた。
六畳一間のアパートには不釣り合いな、昭が持ち込んできたステレオセットで
ストーンズやディープパープルの曲を聴いた。
それぞれが目をつむりタバコをふかしながら自分の世界に入り込んでいた。
三人は三人とも個性的に見えたが、ただの未熟少年の延長だったのかも知れない。
僕も似たようなものではあったろうが、そこまでの生い立ちが彼らとは決定的に違って
いた。
でも…みんな世間に拗ね、家庭の温もりに飢えているのは共通していた。
おそらくは、僕だけがそうしたヒッピー感覚に、意識的に酔おうとしていたのかも
しれない。
四人は同じバイト仲間だった。
いわばデパートの裏方で、手動式エレベーターの操作役をしていた。
大方は大学生や浪人生で、僕たちはまさに除け者的存在だった。
後から思えばヒッピー的だったわけだが、アメリカの彼らとはまた異質で、
やはり真似事をしていただけなのかもしれない。
後から思えば、あの漂流時代こそが一個の人間の創成期だったと確信する。
黒い渦が逆巻き流転していた。その激流の中に漂う木の葉船のように僕たちは生きた。