クラブの帰り道、僕は彼女よりちょっとだけ早く表へ出た。
彼女は自転車、僕は徒歩。最初の曲がり角まではゆっくり歩いて
曲がって彼女の視界から消えた時、音を立てずに走ってマンションの
塀の陰に隠れた。
すぐに追いつくだろうと思って角を曲がってきた彼女は、僕の姿がない
ので、辺りをキョロキョロしている様子だった。そして即座に猛烈な
勢いで自転車をこぎ始めた。僕の隠れてていた場所も瞬時に通り過ぎて
行ってしまった。
そのあまりのスピードに、僕はその先の衝突事故とかが心配になって
猛烈にダッシュして彼女を追いかけた。次の大通との十字路で、彼女は
左右を見まわして必死に僕の姿を探している様子だった。
僕はひとまず安心して、今度は忍び足で彼女に近づいて行った。
その気配に気づいた彼女は、振り向いて・・・心配と安ど感とがごっちゃに
なったような顔で僕を迎えた。そして、僕のイタズラに気が付いたらしく
今度は思いっきり頬を膨らませて「もう、赦さない!」と拗ねた顔をした。
「ゴメン、ゴメン!」と素直に謝って、二人並んでゆっくりゆっくり
歩き始めた。バス停が近づくころには彼女の機嫌も直っていて、素直に
バイバイすることができた。バスの中で、彼女のあの必死さというか
まっすぐさが嬉しくて、ひとりにやけている僕だった。