「人間にいちばん大切なのは逆境に立ったときだ、借銭などでいちじを凌ぐ癖が
ついたら、とうてい逆境からぬけ出ることはできない、どんなに苦しくとも、
自分の力できりぬけてこそ立ち直れるものだ」
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人間とはふしぎなものだ・・・悪人と善人とに分けることができれば、そして或る
人間たちのすることが、善であるか悪意から出たものであるかはっきりすれば、
それに対処することはさしてむずかしくはない、だが人間は善と悪を同時に持って
いるものだ、善意だけの人間もないし、悪意だけの人間もいない、人間は不道徳な
ことも考えると同時に神聖なことも考えることができる、そこにむずかしさとたの
もしさがあるんだ」
「ながい坂」 山本周五郎