台に上がり、首をロープに通そうとしたその時、チャイムが鳴った。
運命のチャイムだった。
二人を見た時、石神の身体を何かが貫いた。
何という綺麗な目をした母娘だろうとと思った。それまで彼は、何かの美しさに見とれたり感動したことがなかった。
花岡母娘と出会ってから、石神の生活は一変した。自殺願望は消え去り、生きる喜びを得た。
あの母娘を助けるのは、石神としては当然のことだった。彼女たちがいなければ、今の自分もないのだ。身代わりになるわけではない。これは恩返しだと考えていた。彼女たちは身に何の覚えもないだろう。それでいい、人は時に、健気に生きているだけで、誰かを救っていることがある。
「容疑者Xの献身」(東野圭吾)
僕は思う・・・