「法律に触れるという意味じゃそうだがな」
照明の落とす影が、猛禽のような義父の目鼻立ちを一段と鋭く見せていた。それでいて、義父はとてもくつろいでいるように見えた。とても親しく見えた。
一瞬、私はぞっとした。
義父の表情は語っていた。法に触れこそしないものの、私はもっともっと凄いことをやってきたよ。裏切りも企みも、駆け引きも暗闘も、収奪も秘匿も。
人間はそういうものだ。必要に迫られれば何でもやるんだ。義父はひとかけらの粉飾もなく、私にそう言っているのだ。問題は、それを背負っていかれるかどうかだけだ、と。
「誰か somebody」(宮部みゆき)
僕は思った・・・