帰 省
「やれ、帰ったかい!暑いのを〜」
「水・・・浴びんかね」
いつ帰っても、父は必ずこう言った。
水浴び(行水)なんて言葉は、父親世代までだろう。
今なら、「シャワーでもせんか」的な感覚だな。
言われた通りに水浴びをして、扇風機の前で涼んでいると
いつの間に出かけたのか、麦わら帽子を被った父が帰ってきた。
手には大きなスイカがぶらさがっている。
「よう冷えちょうけん、食わぁや」
とにかく父はよく歩く。
バスの3〜4停留所くらいの距離はスタスタと平気だ。
長寿の秘訣は脚力・・・たしかにそうだと思う。
歩けなく(歩かなく)なったら見る見るうちに老化は進む。
しばらくすると台所で何やら音がする。
見ると、素麺を手早く湯がいてザルに移し替えている。
父は長年、義母の介護をし続けているから、何事も手際よい。
男のおおざっぱさは仕方ないとしても、ちょっと真似のできないことだ。
僕がテレビで高校野球のの中継を見ていると、父は・・・
広告チラシの裏の白いのを束ねたものに、何やら鉛筆を走らせている。
いい句が浮かんだのか・・・
久しぶりに帰った息子の横顔でもデッサンしているのか・・・
こういうところは見習いたいなぁ〜と思う。