六畳一間の安アパートには、ほんと何もなかった。二畳に満たないキッチンと階段上の押入れ。狭いベランダの奥にトイレがあった。食卓兼机代わりの電気コタツ。部屋の三分の一を占領するボストンのオーディオセット。友達から譲り受けたギター。布団はなく寝袋がひとつ。
壁にはミックジャガーとシルビーバルタンの大型ポスター。ジーパンが4〜5本。ちょっとおしゃれ用のベッチンのブラウンスーツが1着。Tシャツとボタンダウンのシャツが数枚あるだけだった。ウエストは70センチ〜今では想像もつかないガリガリだった。無理もない・・・家出野郎のさすらい人生で太る余裕などあろうはずがなかった。
階下にはバスガイドの姉妹がいて、隣には若夫婦が住んでいた。夜中の地震?と声に慣れるまでは時間がかかった。田舎者で奥手な僕には、それなりの時間が必要だったわけだ。持つべきは適当なレベルの悪友だ。
西側の窓から見える夜景が素敵だった。京都タワーとその周辺のネオンサイン・・・しばし現実を忘れさせてくれた。タバコは何を吸っていたんだろう・・・パーラメント?ショートポープ?どっちにしてもファッション的小道具だったからあまり覚えていない。
風邪でダウンした時は、寝袋の中で犬のように眠り、ひたすら回復を待った。三日三晩動けなかったこともあった。人間の持つ自然治癒能力には、なぜかしら確信めいたものを持っていた。発汗するまでが勝負で、びっしょり汗をかいた後は驚くほどの壮快感だった。
いつも言葉を探している
これだ!というぴったりの言葉を
でも・・・見つからない
胸のつかえと同じで
出そうだけれど出てこない
野に咲く花の風景を
そのまま届けることができたなら
言葉なんていらないんだけれど
頬をやさしく撫でるこの風を
そのまま届けることができたなら
言葉なんて・・・