「誤解を受けるのを恐れずにいうと、私は、ある意味で、戦争が好きだ。いや、やはり誤解を避けるために慎重を期すと、戦争について感じたり考えたりするのが好きなのである。
戦争は、生命という「生の基本的手段」を危殆に陥らせる。だがそのことによってかえって、「生の基本的目的」が那辺にあるか、あるべきなのかが切実な問いとして浮かび上がってくるのである。
死を間近にしてはじめて生が輝く、という逆説から人間はついに自由になることはできないのではないか。戦争についての感受力と思考力と行動力を失った国民には、結局とところ、平和の有難味を知ることすら叶わぬのではないか。
戦争という非日常性の事態に対応できないような人間は、裏を返せば、闘いと戦の要素を含むのが日常生活であるという平凡な一事をわきまえておらず、それゆえその日常生活の中心には大きな空洞が穿たれているのではないか。
「戦争論」 西部 邁
「それで、あの家にこのままの流れで一生いたら、ますます気のいい人間になってしまうんだよ。」
「それの何がいけないの?」
「いけなくはないんだけど、僕が思うに、それは本当の気の良さじゃないんだ。平和で、お金もあって、時間もあれば誰でも人は優しくなれるでしょう?それと同じで、このままではそういう時だけの気のよさになってしまうんだ。それで自分の中にいやな黒いものが育っていってしまう。もしくは、うすっぺらい気のよさで一生終わってしまう。僕はせっかくもともと気がいい男なんだから、できることならその気のよさを育てたいんだ。黒いものではなくて。」
「幽霊の部屋」 よしもとばなな
「僕のガールフレンドは心理学を勉強しているんですけど、彼女に言わせるとね、たしかに僕には、家族に限らず、他人との衝突を極力避けようとする傾向があるんだそうです」
そしてそれは、幼い頃に母を亡くした衝撃的心傷(トラウマ)があるからだというのである。
「僕自身は覚えていないけど、三歳のころの僕は、きっと何かいたずらをしたり、母のいうことをきかなかったりして、母に叱られていたはずなんです。そうしているうちに、母はふっつり姿を消して、家に帰ってきてくれなくなってしまった。だから三歳の僕は、無意識のうちに、僕がお母さんの言うことをきかなかったから、お母さんはいなくなってしまったんだと考えたんだと、彼女は言うわけです。そしてそれが心にしみついて離れない。だから今でも他人と衝突したくない。衝突したら、きっとその人は姿を消して、二度と戻ってきてくれなくなってしまうって、そう考えてしまうから」
「理由」 宮部みゆき
図星だわ・・・
(作:安藤氏)