脆く崩れ落ちる城跡のような崖だった
娘はひょいと跳ねるように岩場の隙間に飛び降りた
そして蟹歩きのようにして斜めに下りて行った
僕はその高さと石の脆さに怖気付いて
瞬時には娘の後を追う事が出来なかった
それでもどんどん置いていかれる距離に促され
僕は意を決して下降を試みた
力を入れた右手の岩がガラガラッと谷底へ落ちて行った
思わず胸を岩肌にくっつけて
僕はしばらく動けずにいた
目だけで娘を追うと
彼女はもう随分と下の方をゆっくりと前向きに歩いていた
此処さえ抜ければ道が開けているように思えた
深呼吸をして僕はずり落ちるように横歩きを始めた
またしても掴んだ岩が脆くその感触を奪って行ったけれど
もうさっきのような恐怖感は失せていた
やがてまともに歩ける場所にたどり着いた時
岩陰に隠れていて
不意にワッと言って顔を出した
娘の笑顔を見た
娘の手術の日の夢だった・・・
「なぜカストロは清貧に甘んじ清廉を貫いていられるのか。それはボリビアの山中で無念にもCIAの手先の元ナチ高官一味に暗殺されたゲバラに、いつも天から見られているからではないだろうか。カストロは偉大な同志であり親友を持ったのである。」
「キューバ国民は敬愛するリーダーを持てて幸せである。民主主義で自由経済の国だけが幸せなんだと思っているのは単純なアメリカ人と日本人だけだ。本物の偉大なるリーダーがいれば、国民は飲み歌い踊り恋をして、幸せに暮らしていけるものらしい。新しい高層マンションが建つと、貧しい人たちから抽選で住まわしている国なんてキューバ以外この地球上に存在しない。マルクスが考えた共産主義の思想が生きている国はキューバだけである。」
「わが隣の国の***に教えたい。原爆なんて作らずに喜び組の踊り子たちを使って観光の国にしたらいい。それにはまず国民に尊敬されることだろう。かれにはカストロにおけるゲバラのような同志も親友もいないのだろうか。」
島地勝彦「知る悲しみ」