学生街の小さな公園のベンチで
いつも君が先に待っていた
ふたつ手前の角を曲がった時
急に両手を広げた君が現れて
僕は驚いた
あなたに決まってるでしょ
とでも言うような自信たっぷりの笑顔で
君は僕の手を握りしめた
クラブの帰り道
親子だから・・・似ているのかも知れない。
あれは、父が今の僕くらいの年齢のころだったのかな。
父は和室の柱にもたれて、両膝を抱え顔を埋めていた。
何か悩み事でもあったのか、得意の俳句でもひねっていたのか?
久しぶりに寄った我が家(帰った〜とは言えない事情があった)。
僕はなぜかそんな父に声をかけられなかった。
当然の結果ではあったが、我が家に僕の部屋はなかった。
家出息子のご帰還は、歓待を受けるほどのことではないと分かってはいたが・・・。
そっと見上げた玄関の壁に、父の書いた大きな額がかかっていた。
『雨に濡れて 独り 石がゐる』
だれの詩の一節だったろうか?
父の心境のように思えて悲しかった。
母が逝き・・・継母が来て・・・兄姉が家を出て・・・兄が精神を病み・・・
自身が大病を患い・・・僕が・・・
父を主体とした眼からして、それらはどう映ったのだろうか?

仕事の現場が近かったので、Yさん宅にご機嫌伺いで行ってみた。
もう来年90歳というおばあちゃんだが、口の方は相変わらず達者で高齢を感じさせない。
昔(30年位前まで)小料理屋を営んでいた人で、ズバズバものを言う明るいお婆ちゃんだ。今もその雰囲気が残っていて話していて楽しく飽きない。
台所のちょっとした不具合を直してあげて、お茶をいただいているとき、昔話が出た。「K大学の総長さんやM製作所の社長さんや・・・えらいさんも結構来てくれてはったんやで〜」
「Yさん、その性格やから・・・みんな安心して息抜きに寄ってたんとちゃう?」
「そうかもなぁ・・・そんな人らにでも<ちょっとこれ、隣に渡してんか>って遣ってたわ(笑)」
なんとなくわかるような気がした。ビジネス絡みで緊張しっぱなしのお偉方が、ふっと安心する母親みたいな空気に寄ってきたんだと思う。
「それにしてもYさん、いい時代にお店やってたねぇ〜」
「ホンマや・・・ええ時代やったわ。今では考えられへんわ」
「Yさん・・・そういう裸の接客をしてきはったから〜若いんやわ」
「そうかなぁ・・・そうかもしれへんなぁ・・・」
Yさんは昔を懐かしむような表情で、また僕にお茶を入れてくれた。
白日の夢・・・
先輩女史Oさんはデパートの若々しい売り子で登場したし
商社の営業マンT君はなぜか旅行会社の添乗員だった。
僕は行ったこともないカトマンズの空港に降り立ち
見上げた空には大小二つの月がさも当たり前のように浮かんでいた。
こりゃあ・・・小説の場面だな・・・そう思った。
<月光の東>や<1Q84>の断片がごっちゃまぜで
まるでスライドショーのように展開した。
僕は何かを(誰かを)追いかけているようにも思えたし
また何かに(誰かに)追いかけられているようにも感じた。
対象物(者)がはっきりしそうな際どい場面で目が覚めた。
寝返りを打ってぼんやりと眺めた夕刻の空には
下弦がかった半月が白くぼんやり浮かんでいた。