緑の野原にきみを見る
薄紫の山並みにあなたを想う
はるか遠い水平線に亡き人たちの声を聴く
故郷は僕を待ってくれているでしょうか
母の想い出のないあの地は
故郷と言えるでしょうか
目を瞑りましょう
夕日を背に菜を摘む母が見える
腰を伸ばし額の汗を拭う母が見える
坂道で両手を広げて僕を抱き寄せる母が見える
死の淵を彷徨う僕を必死に看護する母が見える
僕はあなたに何をしてあげたのでしょう
存するだけで良かったのでしょうか
さよならも言えずただ泣いてばかりいた僕
ただただ想うこと
その想いを届けること
あの時とは逆に
僕があなたを抱きしめてあげましょう

懐かしいのは
きみの吹くハーモニカ
あざやかな半音の切り返しに
クシコスの郵便馬車は飛ぶように走り去る
想い出の歌は
合唱コンクールの課題曲
なぜか先輩たちの年の「花のまわりで」が好きで
アルト担当部分の「♪まわ〜る」をいつも口ずさんでいた
小気味よかったのは
バスケ部のきみのパスまわし
ブラインドもバウンドもオーバーヘッドも
意のままにゲームをつくるきみが眩しかった
清々しかったのは
牧場の柵にもたれていたきみの横顔
長い黒髪をそよ風に透かせて遠くを見ていた
声をかけるのも躊躇われて僕はしばし見とれていた
頼もしかったのは
きみのドライブテクニック
サファリスタイルの車が似合っていた
「ナナハンにも」の話には想像するだけでもかっこよかった
羨ましかったのは
きみの書く流れるような文字
左利きを直された僕の角々文字とは真逆すぎて
もらう手紙は嬉しかったけど、出すのはほんとに恥ずかしかった
驚かされたのは
突然後ろから差しかけられた赤い傘
僕は濡れながら腰を屈めてとぼとぼと歩いていた
バス停で手渡された時、恥ずかしさと嬉しさでずっと握りしめていた
