この歳になるとね 何もかも口にすることが 正直だとも 良いことだとも思わないんだよ 黙して語らず これが被害者ゼロで済む 自分に飛んでくる弾丸は 甘んじて受けるさ 潔くも 恰好よくもないけどね 防弾チョッキなしだよ
言葉を立てて意気ってみても かすかな風にさえ 吹き倒されてしまう そんなものか それだけのものか いや こんなもんじゃなかったよな もう一度だけ 立て直そう 基礎となるべき心の軟弱さが 何本もの杭を飲み込んで行く
車の通る道からずれて 人や犬との出会いを避けて 細い人道を歩く 向日葵 葡萄 蜜柑 それぞれの畑を左右に見て ゆっくりと歩をはこぶ 僕が勝手につけた柿の木坂 その木陰が頂点だ 立ち止まり 緑の風を感じて深呼吸をする もうすぐかな 蝉やトンボたちに逢えるのは
不甲斐なさに 涙 意気地なさに 涙 心の中の 涙池 溜めて 溜めて 溜めて 堪え切る 落涙は許さず 浮かぶ小舟に きみの笑顔を見た気がした
人柄は必ず見える 言葉に 顔に 雰囲気に 飾ったものは 剥がれ落ちる 借り物はすぐばれる 雄弁でなくても 理路整然としていなくても 自分の言葉で語ることだ 相手の目を直視して ならば 伝わるものは 必ず相手に伝わる
時代という荒波に翻弄される木の葉舟 実はそこは海でもなく大河でもなく 小川に等しい流れなのだが・・・ まさしくCM的に言えば一寸法師だな アスファルト上の蟻んこやミミズに目が行ったり 岩陰にポツンと咲く名も知らぬ花に心奪われるのは 単に年老いたせいだけではないだろう 昼間のお天道様は眩しすぎるから せめて夜の星空を仰いで うな垂れ慣れした首に刺激を与えてやろう
昨日や今日のことで 五年や十年のことで その人の人生を語ることはできない 三十年、五十年・・・ その年輪がその人の人生を物語る 大らかな間隔 濃い密度の間隔 歪んだ線 滑らかな円 今この一瞬は 一つの点に過ぎない
曲りなりにも この世の浮き沈みを体験した人は 強い 我慢強い きみも 独りか
時間として十分眠っているのだけれど 夢の中が忙しい 目まぐるしいほどの展開 想定外の登場人物 今はのきわには この世のことが走馬灯のように・・・ と聞くけれど そんな感じかな 年をとったか 何かの知らせなのか ストーリーが現実味を帯びていて 気味が悪いくらいだ
思い出は 美しすぎて 清らかで 透きとおっていて・・・ 現実は とげとげしくて 乱雑で 薄暗い靄のなか・・・ 未来は 何色にもなるようで 落とし穴だらけのようで 闇が待ち構えている
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