六十、六十五歳の定年退職者の
一種悲哀の籠った話がテレビで流れている。
まさしく同世代。さて我は?
「生涯現役」は言葉としては響きがいいが
現実はなかなか厳しいものがある。
それなりの覚悟というか諦めというか・・・
守らなければならない家族がいる。
返さなければならないものがある。
家族も含めて優先すべきことは多々あっても
自分個人の優先は赦されない。
家内や子供たちの病院通いの運転はしても
自分のことで病院へ行くことはない。
そのための節制であり鍛錬であり自重であり・・・
最後の砦は逞しくなくてはならぬ。
押忍!
心の中で身構える。
攻めと守りの体勢固め。

概して、お金持ちさんは汚いね。
善良な本当の大金持ちさんには失礼だから
小金持ちは汚い〜と言いなおそう。
当然支払うべき金に、勿体を付ける。
支払期日にしろ額にしろ・・・
一日でも早く支払うことが、値引きにつながる発想が理解できない。
何十万円なら何千円は端数と考えている。
札束をちらつかせて「現金で払うんだから」と暗に値引きを迫る。
その金をどうする気だ?
帳簿に載らない小銭の山。
それをビジネスとしての高テクニックとでも思っているのかね?
ウンザリだね。
親がそうなら、娘までもがそう。
怖いね〜。
親のどんな背中を見て育ったのかい?
こんな内心とは裏腹に
突き返すほどの度量も男気もなく
「ありがとうございました」と首を垂れる。

四人はいつも行動を共にした。僕のつけたあだ名は、スタローンにミックジャガーに猪八戒。風貌からしてこれ以外のあだ名は思いつかなかった。僕は何て呼ばれていたのだろう?あだ名を付けにくいほど、どこにでもいるようなヒッピー被れだった。
スタローンはほんとにそっくりだった。髪型も顔の堀の深さも体型も。ヘンリーミラーの分厚い本をいつも持ち歩いていた。広島のある新聞社の編集長の息子と言っていたけど、家出の理由は結局話さずじまいだった。ピアノの素養もないのに、バイト先のデパートの従業員休憩室で、いきなり無茶苦茶にたたき鳴らす行動をとったりして驚かせた。即興とも言えない、メロディーもなってない、ひたすら両手を鍵盤に叩き付けていた。「芸術は爆発だ!」岡本太郎を連想した。
ミックはすべてを真似ていた〜と言うか、なりきっていた。髪型、ファッション、歩き方・・・。バイトを終えたら必ず向かいの二階にある喫茶店に行った。ジュークボックスに小銭をつぎこんで、ストーンズの歌に酔いしれていた。目を瞑り足を鳴らし、自分だけの世界に浸っていた。
猪八戒は、これほどピッタリのあだ名はないほど酷似していた。ちょっとがに股で、動物のような歩き方をした。唯一自分の家から通っていた。僕と同じ姓だけど、彼は「ワタベ」だった。何がどう違うのか、いつからどうなったのか、姓の由来で長々と議論したこともあった。家の商売の跡を継ぐとか言っていた。袋帯か何かの関係と言っていたような・・・。
僕は家出息子には違いなかったが、冒険はできない小心者だったと思う。何事にも挑戦はしたが被れることはなかった。ヘアースタイルもファッションも当時の若者と何一つ変わらなかったが、中身とマッチングには?だった。異性にも臆病だし、いつもみんなの後を歩いていた。檻の中から急に解き放たれた小動物のように、世間に怯え、怖々と風の強さと冷たさに、懸命に馴染もうとしていた。
二十歳のエチュード。