『ねぇ、あきおくん・・・』(三つも年下のくせに彼女は僕をそう呼んだ)
「なに?」 『胸・・・痛くなったことある?』 「えっ、痛いのか?」
彼女は同じ放送部(アナウンサー)の後輩だった。宍道湖の防波堤に二人並んで腰
かけて、夕日を眺めている時だった。(ちょっと話がある)と言われてきたのだ
が・・・。致命的なくらい鈍感な僕は、彼女に促されるままに、僕の頭を彼女の大
腿部にのせて沈みかけの夕日を見ていた。彼女は僕のイガグリ頭を撫でながらちょ
っと軽くため息をついた。彼女の甘い香りと胸の鼓動が伝わってきて、微妙な息苦
しさを覚えた。その時、急に彼女は「帰ろっ!」と言って僕を起こし、スッと立ち
上がると、ヒラリとスカートを翻して地面に降りた。そして僕の手を引っ張るよう
にちょっと大股で歩き出した。このころになってやっと僕の鈍感頭はちっちゃな到
達点を見つけていた。それでもそれを言葉に出せず、握られた手をギュッと握り返
すのがやっとだった。