路地を左にまがった踏切の横に、一本植わっている木が、ゆっくりと葉をゆすっていた。彼は、その木が自分と似ているように思えた。なんの木か知らなかった。知りたくもなかった。花も実もつけなかった。ただ日に向って葉を広げ、風にゆれていた。それでいいと思った。花も実もつけることなど要らない。名前などなくていい。彼はその木を見ながら、夢を、いまみている気がした。 「 岬 」 中上健次
この世が<仮の宿>とて 舐めてかかったら <仮>の本質を見誤り <本宮>へは行けないのです そう思うようになりました
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