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背景の記憶(141)

僕自身、そんな感情を抱いたつもりはなかったのだが
「振り回された」「戸惑った」「対処不能」の場面が
あまりにも多かった。

季節の移ろいの周期なら、十分に対応できたかもしれない。
それが、「昨日の今日」とか「朝と夜」というような
心と言葉の変遷は、僕を混乱させ言葉を奪い去った。

僕の中では、「病」と結びつける要素は皆無だった。
むしろ、周りの声や評価にこそ不信を抱いていたくらいだ。
どんな症状であれ、ひたすら「聞く」ということに
僕は集中したし、僕の中で出された答えをさらに抽出して
これだという答えを言葉に託したつもりだった。

何度思ったことだろう。嘆いたことだろう。
言葉の虚しさを・・・言葉の無力を・・・
まるで自分が試されているような疑念が
湧いては消え、また湧き上がってきた日々。

「励ましては逆効果だ」という説も耳にした。
「ひたすら聞いてあげることだ」も実践した。
向き合えば向き合うほど・・・
<純>と<狂>が交錯した。
<陽>と<陰> <ハイ>と<ロー> <躁>と<鬱>
さっきの答えと全く逆のことを言葉にしている僕がいた。

僕は、そのたびに兄を思い出していた。
十分経験済みのはずだったが、十人十色百人百色が
明白な答えであり正解はどこにもなかった。

食い尽くされて、吸いつくされて
干からびた僕の残骸が
夏の終わりを告げる雨に晒されていた。



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背景の記憶(140)

 僕が21〜23歳のころ、英会話教室へ通っていた時の先生がステファニィーという名のアメリカ人女性で、個人授業も受けるほどの関係だったことは、以前にもどこかで書いたと思う。
 彼女はSという日本姓があったので、ミセスというのは分かっていたのだが、その旦那が当時かなり有名な(アンダーグランド的世界ではあるが)ロックバンドのヴォーカリストだったということ知ったのは、随分と時を経て読んだ花村満月の小説の中に、その名が登場した時のことだった。(このこともどこかで書いた記憶がある)
 今日、そのバンドのギタリストの訃報を目にして、改めてweb上で検索してみた。そこで分かったことは、彼女(先生)は、僕が教室をやめた翌年くらいにアメリカへ帰国したということだ。
 まだずっと京都にいるのかな・・・というほのかな思いを抱き続けていたので、ちょっと落胆した自分だった。

 ローリングストーンズ、スバル360、ブロンズヘアー、小学校漢字ドリル、
様々なことが蘇った。おそらく当時の彼女の取り巻きは、僕とはまったく正反対に位置する環境だったに違いない。僕がそれらしき風体をしていたとしても、それはあくまでもカジリであり、真似事にすぎなかった。ドラッグに象徴されるような危険地帯(?)に、彼女は間違いなくいたはずだ。
 やや自惚れ的に言えば・・・まったく対極にいる僕という存在が、彼女には新鮮に映ったのではあるまいか?・・・と。25.8.15.jpg

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背景の記憶(139)

     帰 省

「やれ、帰ったかい!暑いのを〜」

「水・・・浴びんかね」

いつ帰っても、父は必ずこう言った。

水浴び(行水)なんて言葉は、父親世代までだろう。

今なら、「シャワーでもせんか」的な感覚だな。

言われた通りに水浴びをして、扇風機の前で涼んでいると

いつの間に出かけたのか、麦わら帽子を被った父が帰ってきた。

手には大きなスイカがぶらさがっている。

「よう冷えちょうけん、食わぁや」

とにかく父はよく歩く。

バスの3〜4停留所くらいの距離はスタスタと平気だ。

長寿の秘訣は脚力・・・たしかにそうだと思う。

歩けなく(歩かなく)なったら見る見るうちに老化は進む。

しばらくすると台所で何やら音がする。

見ると、素麺を手早く湯がいてザルに移し替えている。

父は長年、義母の介護をし続けているから、何事も手際よい。

男のおおざっぱさは仕方ないとしても、ちょっと真似のできないことだ。

僕がテレビで高校野球のの中継を見ていると、父は・・・

広告チラシの裏の白いのを束ねたものに、何やら鉛筆を走らせている。

いい句が浮かんだのか・・・

久しぶりに帰った息子の横顔でもデッサンしているのか・・・

こういうところは見習いたいなぁ〜と思う。25.8.13-1.jpg

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背景の記憶(138)

          トンボつり

宍道湖とは逆の山手の方に、小さな集落があった。
そこに同級生がいて、夏休みにはよく遊びに行った。
小川では、メダカやアメリカザリガニを捕り、田圃の畦道ではトンボ釣りをした。
狙いはもちろんオニヤンマで、ふつうのトンボを細い糸にくくって、
笹竹を振ってオニヤンマを待った。
上手く後ろに飛んで来たら、ゆっくりと地面に向かって旋回させた。
降りたところで素早くタモを被せて成功!

オニヤンマ.jpg
林の中では、セミ捕りをした。
僕は透明な羽のクマゼミが好きで、けっこう根気よく探し回った。
アブラゼミやニーニーゼミ(?)にはまったく興味がなかった。クマゼミ.jpg
あれは何年生の夏休みの終わりだっただろうか?

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背景の記憶(137)

 あれは小学校の低学年のころだったろうか。僕は父が勤務していた田舎の小学校の宿直の時、一緒について行って宿直室で泊まったことが何度かある。教室棟からちょっと離れた場所に用務員室があり、そこが宿泊場所となっていた。当時は用務員のひとを「小遣いさん」と呼んでいたような記憶がある。曖昧だが・・・。あるいは夫婦だったのかもしれない。晩御飯をごちそうになった記憶もうっすらとある。

 夜の何時ごろだっただろうか、決まった時間に校舎の見回りが義務付けられていた。父は懐中電灯ひとつを持って部屋を出た。僕は一人で部屋に残される方が怖くて父の後をついて行った。たぶん夏のことだったんだろう、まわりの田んぼからはカエルの鳴き声が喧しかった。

 父は不意に電燈を消して僕を驚かせたり、わざと怖い話をして僕の反応をおもしろがったりした。かと思うと、急に大声で歌を歌いだしたり奇声をあげたりした。(後々僕はそれらの行為を宮沢賢治的と捉えてよく思い出した)

 見回りのあるとき、僕はお腹の調子が悪くなり、父に訴えた。その時の父は一緒に便所までついて来てくれて、「腹を時計回りにグルグルグルグルとゆっくり回すんだ」と言った。「もっと姿勢をちゃんとして!」言われた通りにすると、やがてお腹の中でゴロゴロしていたものが、一気に下降してスッキリとした。

 似たようなことが生まれ故郷の隠岐の島へ帰る船の中でもあった。いわゆる船酔いなのだが、父は僕をトイレに連れて行き、「人差し指を喉の奥に突っ込んで下へ押してみろ!」と言った。半信半疑ながら言われた通りにすると、「オエッ!」という声とともに腹の中のものが口から飛び出してきた。「もう一度!」何回か繰り返しているうちに、もう吐き出すものはなくなってしまった。その時はどうなることやらと思えるような苦しさだったが、あとは爽快そのものだった。
 僕は甲板に上がって日本海の荒波を前に、大きく深呼吸をした。
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背景の記憶(132)

山あれば

山あれば
谷あり
谷あれば水あり
うつくしきかな

家あれば
母あり
母あれば涙あり
やるせなきかな
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母を慕う

母を慕う
わが心 すなおなり

母にそむく
わが心 いがむなり

このふたつ
いつも母の姿につながり
からみあいて この年までつづきぬ

あわれにしておかし
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                    詩集・おかさん(サトウハチロー)

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背景の記憶(124)

<青春回帰>


大胆と繊細
奔放と常識
それら両極を有するから
絡まってあるいは交互に・・・


戸惑う僕
振り回される僕


それさえも
楽しむかのような
飛翔と墜落

心的鬼ごっこ

ちっちゃく固まっていたのは
僕で
広く大きくしなやかだったんだ
君は


そして僕は
トルネードのように
吸いこまれて行った24.11.10-3.jpg

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背景の記憶(121)

あのとき

たしかに君は笑っているように見えたんだけど

今思えば

どことなく淋しさを含んだ影があったような

実は僕も

言いたかったことが言えなくて

面白くもない世間話をして別れてしまった

影の源が

そんなに深刻なこととは思いもしなくて

僕もまた

心の嘆きを打ち明ける勇気がなくて

二人とも

道化師のように振舞ってしまったんだね

あれから

君は僕の前から永遠に消えてしまって

僕だけが

独り取り残されてしまった

夏が来て

うだるような暑さの中に

僕は君の涼やかな笑顔を想い出す

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背景の記憶(120)

♪空よ 水色の 空よ
 雲の上に 夢をのせて
 空よ わたしの 心よ
 思い出すの 幼い日を
 ふるさとの 野山で
 はじめて 芽生えた
 あどけないふたりの 小さな愛
 空よ 教えてほしいの
 あの子はいま どこにいるの

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背景の記憶(119)

♪想い出つまったこの部屋を
 僕も出てゆこう
 ドアに鍵をおろした時
 なぜか涙がこぼれた
 君が育てたサボテンは
 小さな花をつくった
 春はもうすぐそこまで
 恋は今終わった

 この永い冬が終るまでに
 何かをみつけて生きよう
 何かを信じて生きてゆこう
 この冬が終るまで24.6.17-3.jpg

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