背景の記憶(121)

あのとき

たしかに君は笑っているように見えたんだけど

今思えば

どことなく淋しさを含んだ影があったような

実は僕も

言いたかったことが言えなくて

面白くもない世間話をして別れてしまった

影の源が

そんなに深刻なこととは思いもしなくて

僕もまた

心の嘆きを打ち明ける勇気がなくて

二人とも

道化師のように振舞ってしまったんだね

あれから

君は僕の前から永遠に消えてしまって

僕だけが

独り取り残されてしまった

夏が来て

うだるような暑さの中に

僕は君の涼やかな笑顔を想い出す

posted by わたなべあきお | - | -

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