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背景の記憶(139)

     帰 省

「やれ、帰ったかい!暑いのを〜」

「水・・・浴びんかね」

いつ帰っても、父は必ずこう言った。

水浴び(行水)なんて言葉は、父親世代までだろう。

今なら、「シャワーでもせんか」的な感覚だな。

言われた通りに水浴びをして、扇風機の前で涼んでいると

いつの間に出かけたのか、麦わら帽子を被った父が帰ってきた。

手には大きなスイカがぶらさがっている。

「よう冷えちょうけん、食わぁや」

とにかく父はよく歩く。

バスの3〜4停留所くらいの距離はスタスタと平気だ。

長寿の秘訣は脚力・・・たしかにそうだと思う。

歩けなく(歩かなく)なったら見る見るうちに老化は進む。

しばらくすると台所で何やら音がする。

見ると、素麺を手早く湯がいてザルに移し替えている。

父は長年、義母の介護をし続けているから、何事も手際よい。

男のおおざっぱさは仕方ないとしても、ちょっと真似のできないことだ。

僕がテレビで高校野球のの中継を見ていると、父は・・・

広告チラシの裏の白いのを束ねたものに、何やら鉛筆を走らせている。

いい句が浮かんだのか・・・

久しぶりに帰った息子の横顔でもデッサンしているのか・・・

こういうところは見習いたいなぁ〜と思う。25.8.13-1.jpg

posted by わたなべあきお | - | -

背景の記憶(138)

          トンボつり

宍道湖とは逆の山手の方に、小さな集落があった。
そこに同級生がいて、夏休みにはよく遊びに行った。
小川では、メダカやアメリカザリガニを捕り、田圃の畦道ではトンボ釣りをした。
狙いはもちろんオニヤンマで、ふつうのトンボを細い糸にくくって、
笹竹を振ってオニヤンマを待った。
上手く後ろに飛んで来たら、ゆっくりと地面に向かって旋回させた。
降りたところで素早くタモを被せて成功!

オニヤンマ.jpg
林の中では、セミ捕りをした。
僕は透明な羽のクマゼミが好きで、けっこう根気よく探し回った。
アブラゼミやニーニーゼミ(?)にはまったく興味がなかった。クマゼミ.jpg
あれは何年生の夏休みの終わりだっただろうか?

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背景の記憶(137)

 あれは小学校の低学年のころだったろうか。僕は父が勤務していた田舎の小学校の宿直の時、一緒について行って宿直室で泊まったことが何度かある。教室棟からちょっと離れた場所に用務員室があり、そこが宿泊場所となっていた。当時は用務員のひとを「小遣いさん」と呼んでいたような記憶がある。曖昧だが・・・。あるいは夫婦だったのかもしれない。晩御飯をごちそうになった記憶もうっすらとある。

 夜の何時ごろだっただろうか、決まった時間に校舎の見回りが義務付けられていた。父は懐中電灯ひとつを持って部屋を出た。僕は一人で部屋に残される方が怖くて父の後をついて行った。たぶん夏のことだったんだろう、まわりの田んぼからはカエルの鳴き声が喧しかった。

 父は不意に電燈を消して僕を驚かせたり、わざと怖い話をして僕の反応をおもしろがったりした。かと思うと、急に大声で歌を歌いだしたり奇声をあげたりした。(後々僕はそれらの行為を宮沢賢治的と捉えてよく思い出した)

 見回りのあるとき、僕はお腹の調子が悪くなり、父に訴えた。その時の父は一緒に便所までついて来てくれて、「腹を時計回りにグルグルグルグルとゆっくり回すんだ」と言った。「もっと姿勢をちゃんとして!」言われた通りにすると、やがてお腹の中でゴロゴロしていたものが、一気に下降してスッキリとした。

 似たようなことが生まれ故郷の隠岐の島へ帰る船の中でもあった。いわゆる船酔いなのだが、父は僕をトイレに連れて行き、「人差し指を喉の奥に突っ込んで下へ押してみろ!」と言った。半信半疑ながら言われた通りにすると、「オエッ!」という声とともに腹の中のものが口から飛び出してきた。「もう一度!」何回か繰り返しているうちに、もう吐き出すものはなくなってしまった。その時はどうなることやらと思えるような苦しさだったが、あとは爽快そのものだった。
 僕は甲板に上がって日本海の荒波を前に、大きく深呼吸をした。
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背景の記憶(132)

山あれば

山あれば
谷あり
谷あれば水あり
うつくしきかな

家あれば
母あり
母あれば涙あり
やるせなきかな
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母を慕う

母を慕う
わが心 すなおなり

母にそむく
わが心 いがむなり

このふたつ
いつも母の姿につながり
からみあいて この年までつづきぬ

あわれにしておかし
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                    詩集・おかさん(サトウハチロー)

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背景の記憶(124)

<青春回帰>


大胆と繊細
奔放と常識
それら両極を有するから
絡まってあるいは交互に・・・


戸惑う僕
振り回される僕


それさえも
楽しむかのような
飛翔と墜落

心的鬼ごっこ

ちっちゃく固まっていたのは
僕で
広く大きくしなやかだったんだ
君は


そして僕は
トルネードのように
吸いこまれて行った24.11.10-3.jpg

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背景の記憶(121)

あのとき

たしかに君は笑っているように見えたんだけど

今思えば

どことなく淋しさを含んだ影があったような

実は僕も

言いたかったことが言えなくて

面白くもない世間話をして別れてしまった

影の源が

そんなに深刻なこととは思いもしなくて

僕もまた

心の嘆きを打ち明ける勇気がなくて

二人とも

道化師のように振舞ってしまったんだね

あれから

君は僕の前から永遠に消えてしまって

僕だけが

独り取り残されてしまった

夏が来て

うだるような暑さの中に

僕は君の涼やかな笑顔を想い出す

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背景の記憶(120)

♪空よ 水色の 空よ
 雲の上に 夢をのせて
 空よ わたしの 心よ
 思い出すの 幼い日を
 ふるさとの 野山で
 はじめて 芽生えた
 あどけないふたりの 小さな愛
 空よ 教えてほしいの
 あの子はいま どこにいるの

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背景の記憶(119)

♪想い出つまったこの部屋を
 僕も出てゆこう
 ドアに鍵をおろした時
 なぜか涙がこぼれた
 君が育てたサボテンは
 小さな花をつくった
 春はもうすぐそこまで
 恋は今終わった

 この永い冬が終るまでに
 何かをみつけて生きよう
 何かを信じて生きてゆこう
 この冬が終るまで24.6.17-3.jpg

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背景の記憶(118)

 僕がバイトで行っていたD百貨店の従業員用のエレベーターは手動式だった。もう四十数年前の話だ。低速、中速、高速の三台があって、昔の外国映画に出てくる〜あれとまったく同じだった。当然ながら扉も手動で、内側の斜め格子状の扉を閉めると可動できた。

 壁付けされたハンドルを左右に回すことで、上下させることができて、手を離した中間でストップだった。問題は各階とのレベル合わせで、特に高速のは慣れるまでに苦労した。たとえば五階で停めようと思えば、四階を過ぎた瞬間にOFFにしなければ、通り過ぎてしまうという具合だった。うっかりしていると、最上階や地下にドスン!とぶつけてしまうことも度々あった。

 もちろん呼び出しのランプによって移動するのだが、レベルをわざと外して停めて、女子従業員たちをキャーキャー言わせて喜ぶ先輩たちもいた。いちばん退屈だったのは低速台で、荷物用として大方は利用され、ちょっと薄暗い照明のため陰気な感じだった。

 たしか三十分交代だったと記憶している。交代したら屋根裏の機械室の一角で休憩をした。機械の油臭さと、ギー・ガタン!ギー・ガタン!の騒音の中、もっぱら読書をしていた。

 忙しかったのは昼食時で、定員オーバーのブザーは鳴るし、満員で通過ばかりして、中間階の人たちに怒られるし・・・それはそれは大変だった。もっと大変だったのは、催し会場の変わり目の時で、特に家具展の時はまさに戦争状態だった。物は大きいし、各業者が先を争って載せようとするし、半分けんか腰状態だった。

 そんな中・・・24.5.29-5.jpg

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背景の記憶(116)

♪青臭い奴だと 笑わば笑うがいい
 僕らの汗は 僕らだけの勲章さ
 小さな肩をかすめた大きな怒りよ
 もっともっと 激しく土の上を転がれ
 あゝ 時代は僕らに雨を降らしてる

 いやでも ひとつづつみんな大人になってさ
 だましだまされ 臆病になってきた
 踏み出すことをためらう時は終わった
 出航まじかの世代がもうそこまで来てる
 あゝ 時代は僕らに雨を降らしてる

 新しいピアノに耳をかたむける
 どこからか僕たちだけの唄がきこえる
 これからあと どのくらい叫び続けよう
 鍵盤に僕らの明日をたたきつけるんだ
 あゝ 時代は僕らに雨を降らしてる

              (長淵 剛 ・ 時代は僕らに雨を降らしてる) 
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