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背景の記憶(159)

軽やかに半音を切り替えるハーモニカ演奏〜クシコスの郵便馬車

体育館に響き渡る〜「nice shoot!」の声

防波堤に翻るスカート

鮮やかなコバルトブルーのシャツ

薄暗い跨線橋下を通る爽やかな風

見舞いの便箋に添えられた数枚の顔写真

バイク事故の体への献身の看護

別れの時の頬へのくちづけ

ペンネームで寄せられた何通もの手紙

「どうしてそんなに苦しい方へばかり行くの?」

離島で眺めた満天の星空

遠路はるばるやって来た湖畔の宿の別れ

「結婚しました」の短い文面の葉書と代わった苗字

流れるように達筆な文字

勝ち気で颯爽と歩くミニスカート

「思い出に・・・」と差し出すものは受け止められず

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巡る巡る〜時代は巡る26.11.12-2.jpg

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背景の記憶(158)

間借りであれ、アパートであれ、

借家であれ、持ち家であれ

家(部屋)は存在したが

家庭がなかった。

温もりがなかった。

何よりも先が見えなかった。



今、ぼくは

家庭の太陽なんだろうか

家の柱なんだろうか

ひょっとして僕も

同じことをしてるんじゃなかろうか。

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背景の記憶(157)

    満天の星


離れ小島の海辺に寝転がって

満天の星空を見上げた

あの夜を覚えているよね


無数の星たちは

手が届くようにそこにあって

降ってくるような

引き込まれるような

あの不思議な感覚


流れ星は

幾筋もの鮮やかな直線を描いて

水平線の向こうに消え

星雲も星屑と呼ぶには

もったいないくらいに

宝石のようにそれぞれが輝いて


本土の雑踏や喧騒を

吐き気を覚えるくらいに

遠ざけたくて

このまま時間余止まれと叫ぶ言葉を

大きなため息に変えて

僕は目を閉じた


すぐとなりのきみは

何を考えていたのだろう

何を夢見ていたのだろう

五つの年齢差は

母と子ほどの重さと温もりで

僕のすべてを包み込んだ

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背景の記憶(156)

  旅立ち


きみが手を振る

脚を大きく踏ん張って

両腕を頭の上で激しく交差させる


大勢の見送りの人たちの群れから離れて

きみが手を振る

デッキの上の僕は

きみの大きな動きの中に心を読み取る


軽いなさよならではない

複雑なさよならでもない

逆だな

こんな場面で一つになれたなんて


一筋の船の航跡が僕の想いを乗せて

遠ざかってゆく

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背景の記憶(155)

六年生の夏休み

これはなかなかの大役でした。放送部だったからかな?26.7.22-3.jpg26.7.212-2.jpg

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背景の記憶(154)

二月に百歳で亡くなった父が、以前送ってくれた物のなかに、僕が小学校五年生の時の日記帳があった。教師だった父らしく、それぞれにコメントが付されている。

三月二十八日 土曜 天気 晴 起床 七時0分 就床 八時二十分

あおあおとしたかいせいの空に  

一きのジェットキが 白い線で

空を二つにわった

ツツート、ジェットキが

とんでいってしまった

空には、白いせん一本

ほかにはなにもない


こんな詩ばかりでなく その日にあったこと、思ったこと

したこともかくとよい。26.7.22-1.jpg

表紙裏には

「日記はよいことだ 続けることがむつかしい」

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背景の記憶(153)

「いつも遠くを見てる目をしてるね」

「どこかに何かを忘れてきたの?」

「未練?失恋?後悔?・・・」



全部かな

いろんなことがありすぎたよ

僕の年齢と短い時間を思えば・・・

そばに居てほしい人は

みんな僕から離れて行ったよ

結婚、病死、脱走、転向・・・

どちらが真面なのか

何が正義なのか

人道という名の仮面

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背景の記憶(152)

「ねぇ〜、胸が痛いってことある?」

呼び出されて宍道湖の防波堤に腰かけていたとき

突然放送部の後輩の彼女が聞いてきた。

「えっ?」

僕はどう答えていいのか戸惑った。

「う〜ん・・・経験はないけど、あるんじゃないかな」

「好きなひとでもできたんか?」

彼女はしばらく黙って俯いていたが

突然立ち上がり、くるっと反対を向いて

ひらりと地面に飛び降りた。

スカートを翻したその動きの中に

「あっ、もしかして・・・」と思ったとき

彼女はもうかなり前を歩き始めていた。

何とも言えない複雑な想いが、彼女の背中に漂っていた。

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背景の記憶(149)

君はお兄さんの強引さに屈した形だったけど

一番君のことを思っていたのは弟くんの方だったんだぜ

わかっていたかい?

僕はお姉さんの積極性に引っ張られた形だったけど

一番僕のことを思ってくれていたのは

妹の君だったんだね

僕は・・・気付かなかったよ

君が遠く東京にお嫁に行って

随分経ってから教えてくれた人がいたんだよ

世の中って・・・

そういうものなんだね

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背景の記憶(143)

雨が降ると思い出す
仲直りの日は
いつも雨の日曜日だった

後から思えば
小さな誤解や言葉の行き違いだったのだけど
その時は
この世の終わりのような深刻さだった

周りも心も
静けさに包まれた
雨の日曜日
わだかまりが洗い流され
本来の純心が蘇った
「ごめんなさい・・・」
それだけでまた
前を向いて歩きだした

それはいつも
雨音もない
静かな静かな雨の日だった
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