本来、悦びは無意識のうちに、心の中から湧き上がってくるものだろう。
しかし残念ながら、自力で掴んだものと勘違いをして、本心からの悦びを持て
ない人は、この世にはわんさかといる。そしてその傲慢さは、図らずも顔にでる。
こればかりは何としても隠せない、見えてしまう。
ちょっと角度は違うが、昔ブラックな世界に身を置いていた人が、僕の職場に
就職してきた。かなりの技術者で、会社にとっては大きな戦力となったわけだが、
僕が訳アリで退職した時、彼も一緒に職場を離れ、僕と一緒に共同で事業展開を
することになった。その彼が酒を飲んでいる時に、真剣に言った。
「ナベちゃんは、穏やかな顔してるなあ・・・俺は詳しいことは言えないけど、
ちょっと危ない世界に身を置いていたから、そのころのツケで人相が変わって
しまったんだ。毎晩鏡を見ては、眉毛の両端を押し下げてるんだけど、なかなか
なあ・・・」としみじみと呟いた。
僕は正直どう答えていいか分からなかった。顔相にしろ手相にしろ、そう簡単
には変わるものではないだろう。住む世界を変えたからと言って、真っ新で
やり直せるわけでもない。常に何かしらの影が付きまとっている。数年で袂を
分けたわけだが、単身でやり抜くことができたのだろうか?
他人事ではない、僕には僕なりの悩みがあった。丸さ、優しさだけではクリア
できない現実の厳しさが突き付けられてきたのだ。だれかが冗談半分に言った。
「やっぱり、ナベちゃんは学校の先生になるべきだったな。商売人はムリ!」
ウソがつけない、ハッタリがきかない、冒険心がない、・・・ない、・・・ない
ないない尽くしの人生行路。それでも僕は歩いてゆく。
僕はじっと待っていたのです
動けば見つけられないだろうと
僕は眼を瞑っていたのです
微かな香りも見逃すまいと
僕は耳を澄ましていたのです
あなたのハミングを聞き逃すまいと
横顔が好きでした
振り向いたあどけなさが好きでした
ただ遠くから見るだけの僕でした
風が運んだこの愛は
わたしひとりの大きな愛
だれも知らないこの愛は
わたしひとりの宝もの
このときめきは
ゆるやかな波動を呼んで
緑の風に乗り
あなたの頬に届くでしょうか