もう一人の自分が叫ぶ
「わ−!」
そのもう一人の自分が冷たい目で
見つめている
「俺はさあ……」って
日頃使わない一人称で呟く
これは弾ける前の兆しなんだよな
第三者は
それを心の病と定義付ける
君は忘れてしまったのか
忘れようとしているのか
どっちにしたって
声の届かないこの現実に
僕は立ち尽くしている
発信源であるべきその場所に
僕の足は進まない
いや・・・進めない
防音壁の中での独り言のように
発したい言葉たちが灰色の壁の中に吸い込まれてゆく
何をしたって無意味さ・・・とでも言うように
♪あぁ、あれは春だったね・・・の旋律に乗せて
僕の想いが風に運び去られてゆく
遠い、遠い世界へ
縁なき人は、必然的に離れゆく
縁ある人は、時を要しても繋が
るべくして繋がる
知己とはそういう存在だ
知己に巡り逢えることは
人生最大の悦びだ
・・・母は四つの僕を残して世を去った。
若く美しい母だったそうです。・・・
母よ
僕は尋ねる
耳の奥に残るあなたの声を
あなたが世に在られた最後の日
幼い僕を呼ばれたであろう最後の声を
三半規管よ
耳の奥に住む巻貝よ
母のいまはのその声を返へせ
堀口大学
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堀口大学は四歳か
僕は三歳
父は無言でこの詩集を
僕に手渡した
逢いたい人がいる
行きたい場所がある
でもなぜか
鍵がかかっている
通行止めになっている
鍵をかけたのは誰?
鉄柵を置いたのは誰?
人は日常に追いまくられ
昨日の夢も忘れ
明日の光も見出せない
美しすぎた想い出も
懐かしいあの景色も
灰色の渦が消し去ってしまう
二人で並び見た あの景色は
もう遠い霞の向こう
思い出の片鱗すら見つけられない
二人が交わした言葉さえ
心の中には蘇らない
「さよなら」も言わずに消えて行く
その長い空白の中に、何を想えと言うのだろう
想像できる答えを三つ
心の白紙に書いてみた
それらの上に三本の直線を引き
可能な限りの横線を引きあみだくじを形成した
僕は当然の如く三番を選んだ
鉛筆が曲がり下りるにつれて
その速度は緩まって行った
そして・・・僕は・・・
その作業を停止してしまった
その三つの答え以外のような気がしたのだ
それはおそろしく不気味でもあり
とんでもなく歓喜的でもあるようにも思えた
公園や広い中央分離帯の銀杏並木は
散髪されることはない
わが季節到来!とそびえ立つ
悲しく切り落とされるのは
歩道に植わる彼たち、彼女たち
この寒風では風邪ひくぞ
もうしばらく居させてあげなさい
物悲しい歌でも口ずさめるように
♪銀杏並木の・・・
♪ふたりで歩いたあの坂道も・・・
冷たい雨がアスファルト道に地図を画く