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背景の記憶(280)

 クラブの帰り道、僕は彼女よりちょっとだけ早く表へ出た。

彼女は自転車、僕は徒歩。最初の曲がり角まではゆっくり歩いて

曲がって彼女の視界から消えた時、音を立てずに走ってマンションの

塀の陰に隠れた。

 すぐに追いつくだろうと思って角を曲がってきた彼女は、僕の姿がない

ので、辺りをキョロキョロしている様子だった。そして即座に猛烈な

勢いで自転車をこぎ始めた。僕の隠れてていた場所も瞬時に通り過ぎて

行ってしまった。

 そのあまりのスピードに、僕はその先の衝突事故とかが心配になって

猛烈にダッシュして彼女を追いかけた。次の大通との十字路で、彼女は

左右を見まわして必死に僕の姿を探している様子だった。

 僕はひとまず安心して、今度は忍び足で彼女に近づいて行った。

その気配に気づいた彼女は、振り向いて・・・心配と安ど感とがごっちゃに

なったような顔で僕を迎えた。そして、僕のイタズラに気が付いたらしく

今度は思いっきり頬を膨らませて「もう、赦さない!」と拗ねた顔をした。

 「ゴメン、ゴメン!」と素直に謝って、二人並んでゆっくりゆっくり

歩き始めた。バス停が近づくころには彼女の機嫌も直っていて、素直に

バイバイすることができた。バスの中で、彼女のあの必死さというか

まっすぐさが嬉しくて、ひとりにやけている僕だった。

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posted by わたなべあきお | - | -

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