背景の記憶(344)

僕は何かに絶えず駆り立てられるように、その日その日を過ごしていた。

愛情の一番終わりの境界……その一線がハッキリと眼前に表出した。

涙は悲しみの表出てはなく、朝の草を飾る露のように自分の睫毛を濡らした。

それを機に、僕はピエロの仮面を脱ぎ捨てたような衝動を覚えたのだった。

脱出の日、片付けるものなど何一つ無いと言ってよかった。着の身着のまま

僕は脱出した。父の「お前は、脱出の名人だな……」という言葉が甦った。

スリルという言葉はあてはまらない、僕はこういう瞬間にいわば慣れていた。

18年間て唯一習得出来た特殊な【芸】だったのかも知れない。

半世紀以上を経た今日、僕はその芸を再現出させようとする自分に

驚きを隠せない。習癖は冬眠から覚めて甦るのだ。

あの時、「父よさらば、兄姉よさらば、可哀想な継母よさらば……」

と綴った言葉がまざまざと蘇ろうとしている。

結局のところ……その行き先は、実母の懐なのだが……

そしてまた、……ということは【X】にしかあり得ないのだが……。

posted by わたなべあきお | - | -

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