離島〜隠岐の島の港湾建設に従事していた僕に、一枚の暑中見舞いの葉書が届い
た。印刷された定例文の横に、県名と見覚えのない姓だけが、流れるような達筆で
書かれていた。もちろんその字体だけで誰からのものかは理解したのだが、更にダ
メ押しのように「結婚しました」の一行が添えられていた。
その事ごとの一つ一つが、彼女らしい心遣いであるのは。痛いほどわかったのだ
が、それがまた余計に僕の心を締め付けた。とっくに諦めて覚悟していたはずの
事柄であったのに、図らずも涙が溢れて、頬を伝った。
その傷心を癒すための、そして全てを忘れるための一大プランであったはずなの
に、誰が彼女に住所を知らせたのだろう?思い当たるのは数人しかいないのだが
それを突き止めたところで、その人に罪はない。
僕にとっては、酷な結末と言えるが、アンコールの無い最終幕が降ろされた瞬間
だった。
Trackback URL : https://watanabe.xtr.jp/sb.cgi/2814
コメント