脱出の妙

父が僕に言った

「おまえは、脱出の名人だな」

居場所を告げて家を出たのが家出と言えるのかは別として

これが最初の脱出だろう

そして、宗教施設からの脱出

これは本物中の本物

犯罪者でもないのに、逃亡者そのものの

迫真の計画と決行だった

お世話になった叔母の家からの脱出

商売の倒産絡みだったとは言え、心苦しい脱出だった

叔父の仕事の手伝いからの脱出

これまた給料不払いが遠因としても

我慢の限界を越えた脱出だった

青春時代の彷徨と言えばそれまでだが

確かに、父が言ったように、僕は脱出の名人になった

脱出は一方に訣別を伴う

その訣別の辛さ、悲しさが脱出を劇的なものにする

土地を転々とすることの意味よりも

心の流転こそが脱出の妙なのだ
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posted by わたなべあきお | comments (0) | trackbacks (0)

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