父が僕に言った
「おまえは、脱出の名人だな」
居場所を告げて家を出たのが家出と言えるのかは別として
これが最初の脱出だろう
そして、宗教施設からの脱出
これは本物中の本物
犯罪者でもないのに、逃亡者そのものの
迫真の計画と決行だった
お世話になった叔母の家からの脱出
商売の倒産絡みだったとは言え、心苦しい脱出だった
叔父の仕事の手伝いからの脱出
これまた給料不払いが遠因としても
我慢の限界を越えた脱出だった
青春時代の彷徨と言えばそれまでだが
確かに、父が言ったように、僕は脱出の名人になった
脱出は一方に訣別を伴う
その訣別の辛さ、悲しさが脱出を劇的なものにする
土地を転々とすることの意味よりも
心の流転こそが脱出の妙なのだ
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