三十年前の父だ
柱にもたれ
膝を抱えて
顔を埋め
動かず
黙考していた
何を思い巡らしていたんだろう
足元には
紙と鉛筆が置かれていた
僕には読み取れない
文字が散らばっていた
ただ
「視姦」という一語だけが
読み取れて
心の片隅に引っかかった
小説の中の言葉なのか
現実の中のそれなのか
僕には判断しかねた
義母の入院先へ通う
父の心の動きに
薄ぼんやりとした
怖れを抱いた記憶がある