「それで、あの家にこのままの流れで一生いたら、ますます気のいい人間になってしまうんだよ。」
「それの何がいけないの?」
「いけなくはないんだけど、僕が思うに、それは本当の気の良さじゃないんだ。平和で、お金もあって、時間もあれば誰でも人は優しくなれるでしょう?それと同じで、このままではそういう時だけの気のよさになってしまうんだ。それで自分の中にいやな黒いものが育っていってしまう。もしくは、うすっぺらい気のよさで一生終わってしまう。僕はせっかくもともと気がいい男なんだから、できることならその気のよさを育てたいんだ。黒いものではなくて。」
「幽霊の部屋」 よしもとばなな