背景の記憶(156)

  旅立ち


きみが手を振る

脚を大きく踏ん張って

両腕を頭の上で激しく交差させる


大勢の見送りの人たちの群れから離れて

きみが手を振る

デッキの上の僕は

きみの大きな動きの中に心を読み取る


軽いなさよならではない

複雑なさよならでもない

逆だな

こんな場面で一つになれたなんて


一筋の船の航跡が僕の想いを乗せて

遠ざかってゆく

posted by わたなべあきお | - | -

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