背景の記憶(103)

脆く崩れ落ちる城跡のような崖だった
娘はひょいと跳ねるように岩場の隙間に飛び降りた
そして蟹歩きのようにして斜めに下りて行った
僕はその高さと石の脆さに怖気付いて
瞬時には娘の後を追う事が出来なかった
それでもどんどん置いていかれる距離に促され
僕は意を決して下降を試みた

力を入れた右手の岩がガラガラッと谷底へ落ちて行った
思わず胸を岩肌にくっつけて
僕はしばらく動けずにいた
目だけで娘を追うと
彼女はもう随分と下の方をゆっくりと前向きに歩いていた
此処さえ抜ければ道が開けているように思えた
深呼吸をして僕はずり落ちるように横歩きを始めた
またしても掴んだ岩が脆くその感触を奪って行ったけれど
もうさっきのような恐怖感は失せていた

やがてまともに歩ける場所にたどり着いた時
岩陰に隠れていて
不意にワッと言って顔を出した
娘の笑顔を見た


娘の手術の日の夢だった・・・24.2.10.jpg

posted by わたなべあきお | - | -

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