京都ラブストーリー

 父も近い将来の結婚を大賛成したT子さんから手紙が届いた。差出地は福岡となっていた。彼女の故郷だ。どうやら彼女も宗教施設を脱出したようだ。僕の高校の卒業式に親代わりに来てくれた彼女。父は離島の隠岐の島の中学校に赴任中であったわけで・・・。五歳年上だったから、彼女は二十三歳。式の後の教室でのお別れの時、明らかに雰囲気の違う彼女は、同級生からも、父兄からも、興味津々の眼差しを受けた。お姉さんにしては顔が似ていないし、教室は微妙な雰囲気だった。

 告白は彼女だった。高校二年の時、父の赴任をきっかけとして宗教施設に入り、そこから高校へ通った。彼女は事務職員であり、会長の書いた原稿のガリ版切をしたり、会合の受付などをしていた。彼女は本当に達筆で流れるような美しい字を書いた。左利きを無理やり直された僕の字とは比べ物にならなかった。

 彼女には四つ下の妹がいたのだが、性格は真反対で、控えめな恥ずかしがり屋さんだった。姉さんは快活で何でも積極的、二人の距離はどんどん縮められて行った。夕食後の僅か半時間が二人に与えられたものだった。施設の近くは湖の干拓事業が進んでおり。その空き地の中の跨線橋の下が逢瀬の場所だった。今思い出せば、何とも初々しい清らかな繋がりだった。

 研修会前の一週間は大忙しだった。ほとんど毎晩徹夜に近い状態で、僕は彼女たちの切ったガリ版の謄写版印刷の役目だった。寝不足で目を腫らした彼女が、休憩がてらに僕の所へ来てくれた。傍に居てくれるだけでうれしかったし、頑張る元気が沸いた。それを偶然見た研修生が「イイ感じだね」と冷やかした。

 彼女の手紙の内容は、大事な用件で京都へ来るというものだった。宿泊場所は琵琶湖畔の旅館が記されていた。又しても叔母は警戒心を露わにした。手紙の中味こそ見せなかったが、大方の想像は出来ていたのだろう。叔母の反対を押し切って、僕は彼女に逢いに行くことにした。

 おそらくは「結婚」のこと。それしかなかったはずだ。もう彼女も二十五歳。その当時は明確に結婚適齢期なるものが厳然と存在していた。彼女はもうギリギリの立場だったのだ。周囲からの圧力もあっただろう。彼女はおそらく最後の賭けにやって来るのだ。二十歳の僕には彼女ほどの切実感は無かったが、決着をつけなければならない圧力は感じ取っていた。このまま彼女と一緒に博多に行ってしまおうか・・・。それとも・・・。悶々とした一週間が過ぎて約束の日がやってきた。、

posted by わたなべあきお | - | -

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