背景の記憶(276)

 高校二年の夏休みが終わったとき、僕は担任のS先生に呼び出された。「こないだ親父さんと話したんだけど(そうなんや、知らなかった)おまえどうするつもりなんだ?三年生になったら、希望進路ごとのクラス編成(能力別)になるのは知ってるよな?おまえはどういうわけか入学試験の成績が高くて(失礼な!)、今のところ男子のトップ50に引っかかっている。そのクラスに付いていけるのか?」

 親父がどんな説明をしたのか不明だったけど、当時すでに家を出て、ある宗教施設に入り込んでいた僕には、選択肢もくそもなかった。そもそも父が入信した宗教だったのだけれど、家庭環境の激変と勧誘(誘惑)が重なって、多感な少年は急激にそちらへと傾斜して行ったのだった。当然ながら予習復習などできるわけもなく、連日ガリ版切とか謄写版印刷とかの日々が続いていたのだ。

 「就職します」の返答に「この学校にはそんなコースはない!」S先生の罵声が職員室に響き渡った。ほかの先生たちがビックリしてこちらを振り向いた。国公立、有名私立、一般私立と言ったランク付けは想像していたが、ホントに進学の意志の失せていた僕は「じゃあ・・・私立文科系でお願いします。」と答えた。しばらく考え込んでいたS先生は「そのクラスで耐えられるのか?」と言って、僕の顔を覗き込んだ。 この時点で、僕を自分と同じ教職に就かせよういう父の願望は消えた。

 S先生の予言どうり、三年生一学期の始め、僕を待ち受けていた教室の空気は重かった。「なんでアイツが???」そんな無言の圧力が僕に重くのしかかってきた。唯一の救いは、小学校の時のあの彼女が〃クラスにいたこと。(もちろん接点など生まれなかったけど・・・。)自分さえこの空気に堪えれば、それはそれで気楽な雰囲気と思えなくもなかった。そして何よりの救いは、新しい担任となったK先生の存在だった。31.4.12-2.jpg

posted by わたなべあきお | - | -

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