背景の記憶(265)

 D百貨店のバイト仲間のランボーことM君は、呉服売り場の彼女にアタックした

が、まったく相手にもされず、超落ち込んでしまった。目も虚ろで抜け殻のよう

だった。それは真冬の厳しい寒さのことだったのだが・・・、彼は近くの小高い山

に登り、雪の中で凍死寸前のところまで行ったらしい。そしてギリギリのところで

彼は煙草用に持っていたマッチに火を点け、それを手の甲に押し付けたらしい。

そこで我に返りやっとのこと下山したらしい。(後々の彼の話)


 僕の部屋に転がり込んでいた彼は、ある日寝袋一つを抱えて「ギリシャに

行ってくるわ」と言い残して、ホントに出ていってしまった。

 ギリシャ?どこでどう繋がっているのか、僕には全く理解できなかった。

数日後、彼からハガキが届いた。「今、横浜。明日、ギリシャ船に乗る」と

だけ書かれていた。


 彼がひょこっと僕の部屋に帰ってきたのは、それから一年後のことだった。

トウランドット.jpg

posted by わたなべあきお | - | -

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