「父の文章教室」

メソッドは無能な者を掬いあげるための方便のようなものですが、メソッドで得られるものはせいぜいが並の上といったあたりの常識的な世渡りにすぎません。努力も同様です。頑張ればなんとかなるなどということをしんじているような者は敗者です。


父の念頭に社会性云々があったならば私をちゃんと通学させたでしょう。けれど父にとって学校教育など、どうでもよかったのです。ですから強制的な読書で文章が書けるようになるのかと問われれば、私の場合はそうだ、と答えましょう。脳も軀の一部であるがゆえに、筋肉と同様に負荷を与えなければ瘦せ細っていくのではないか。そんな屁理屈を胸に、私はいまでも読んで理解のできない書物を好んでひらくのです。


以前に引用したA・ジェンセンの『知能は遺伝的要因で八十パーセント、環境要因で二十パーセントがけっていされてしまう』という研究結果は実感的に正しいと感じられます。穴のあいた水瓶に水を注いでも無駄であるということです。

              「父の文章教室」 花村萬月

posted by わたなべあきお | - | -

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