背景の記憶(70)
♪雨上がりの午後 とどいた短い手紙 ポストのそばには 赤いコスモスゆれていた 結婚するって本当ですか 机の写真は笑ってるだけ ほんのちいさな 出来事で 別れて半年 たったけれど やさしい便りを待っていた 待っていた
ルルル・・・ 結婚するって本当ですか いまでもあなたが 好きだから 心をこめて祈ります 幸を
僕の場合、実際はハガキだったのだが、確か・・・残暑見舞いの後書きに書かれていた。僕はそのころ、日本海のはるか離島で港湾建設の仕事で、汗と泥にまみれていた。何も考えたくない、やたら体を酷使して、酒を呷っては眠りこける日々だった。 当然予想されていたこととはいえ、やはり心は揺れた・・・。諦めの中でも、心の片隅にかすかな希望めいたものを灯し続けていたからだ。 自分が変わること、強くなること、そして何よりも生活力をつけること・・・そんな願望を抱いて、それを少しでも実現するには、頭をこねくり回さない肉体労働が必須だったのだ。 「どうしてそんなに苦しい方へばかり行くの?」こびりついたこの言葉には、答えようがなかった。二十歳の僕には、世の中の全てが無理だったんだ。
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