背景の記憶(48)
「わしが給料〜はろとるんじゃ!」深夜の会議室に、社長の怒鳴り声が響き渡った。
経営陣との団体交渉・・・と言えば聞こえは良いが、株式会社とは名ばかりの同族会社。まったく交渉の体を成していなかった。
若い社員の不平不満を抱え込んで、僕はその交渉(?)の先頭に立っていた。社員もほぼ全員が集まっていた。欠席者は、諦めムードいっぱいの先輩たち数人。
会議の数週間前には、血判状のような趣意書にみんなが名を連ね、社内は異様な空気に包まれていた。事の発端は、会計に従事していた女子社員の、内部告発的な発言だった。同族会社の典型的なからくり決算書が、社員の目に触れたことに因るものだった。
僕は極力感情を抑えて、待遇の改善を訴えた。そして、社員のやる気を起こさせるため、当時としてはまだ耳新しい能力給の導入を要求した。
社長は終始無言で、みんなの意見を聴いていたが、誰のどの言葉に反応したのか解らないが、冒頭に書いた言葉が飛び出した。
(それを言っちゃあ・・・おしめぇよ)
僕は心の中でそうつぶやいて、席を立った。引き留めようとする者もいたが、僕は無視して会議室を出た。
家に帰る車の中で、僕はつぶやいた・・・。「このままじゃダメだな・・・辞めよう・・・」
その日から一か月の間に、僕は五人の送別会をやり、僕自身も辞表を提出した。立場上、三か月前という約束事を守ってのことだった。
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