背景の記憶(36)
対人恐怖症で赤面症の僕が、一大変身(本人の正直な気持ち)を遂げられたのは、まさしくMrs.S先生の御蔭だ。
Y君との約束で、アメリカ行きを計画していた僕は、夜のほとんどを英会話の授業に費やしていた。デパートや酒屋でのバイト料は、ささやかな額ではあったが、すべてを払っても惜しいとは思わなかった。
嬉しかったのは、彼女が僕の事情を察知したのか・・・、課外授業を提案してくれたことだった。教室でのレッスンが終わった後、二人で喫茶店へ入り、二時間くらいの充実した時間を過ごした。
もちろん日本語は禁止で、僕が小学校3〜4年生くらいの漢字ドリルを教え、そのすべてを英語で説明し教えるという方法だった。
2〜3回目の時、彼女が言った。「Mr.Watanabeは・・・個性がないね。もっと〜pretend!」その時は真意がいまいちわからなかったが、その後なるほどと思い、役者ぶった振る舞いができるようになっていった。
それと並行して、自然と自分の中のおどおどした部分が消えて行き、いつの間にか顔が赤くなるのもなくなっていった。
そんな変化を、彼女は我が事のように喜び、課外授業は想定外の方向へと発展していった。
それは・・・大人になりかけの僕にとっては、夢のような展開であったが、彼女は彼女で・・・僕の中に何かしら(?)を見つけたようであった。
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