背景の記憶(29)
子供のころ、家の廻りの道路はとても広くて、距離も長く感じたものだが・・・大人になって帰省して歩いてみると、その狭さ短さに驚かされる。
目に見える風景や物よりも、時間の及ぼす影響は計り知れない。
夕方、遊び疲れて帰宅すると、家には鍵が掛かっていて誰もいなかった。
再婚した父と継母はどこかへ出かけたのだろう・・・。
暗くなると、闇は時を長く感じさせるように思う。僕は怖さを覚えて、街灯のある表通りのバス停へと歩いて行った。
何台かバスを見送ったが、父は降りてこなかった。今思えば、1〜2時間のことだったかもしれない。しかし、小学校入学前の僕には、とてつもなく長い時間に思えた。
僕の記憶は、バス停の前の孤独な自分で止まっていて、それから先どうなったのか覚えていない。
大きくなって・・・恨み、憎しみといった感情はないが、自分はこんなことは絶対にしないぞと強く思わせる出来事であった。
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